爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「齋藤孝のざっくり!日本史」齋藤孝著

教育学者の齋藤さんですが、日本史の大きな出来事について現代にまで強い影響を及ぼしていることを示し、あらためてその意味を考えさせるという主題でいくつかの歴史を解説しています。
受験用の歴史と言うものは確かにあまり面白くはありません。教科書や参考書の隅にでているような事柄ばかりが試験に出るようで、こまごました記憶が必要になりますが、もっと大きなところで現代まで左右しているようなことを知れば興味もわくだろうということです。

明治維新では「廃藩置県」という事実を習います。その意味は一通りは学習するのでしょうが、自分がもしもその時に大名だったら、武士だったらと考えるとこれは大変なことであることがすぐに分かります。不平武士の叛乱というのもいくつかは起きますが、ほとんどの大名、武士は言われたとおりに従ってしまいます。ここに著者は「日本人の”いいなり”性格」を見るわけです。明治政府はまず自分たちの殿様である薩摩・長州の殿様に版籍奉還をさせます。そうしてしまえば他の大名も逆らうことができず、次々と従いました。ここにも日本人のひとたび方向性ができると全部将棋倒しという性分があるのだそうです。

万葉仮名というものも学習はしますが、その意味を本当に理解できていないのではということです。中国から漢字は取り入れましたが、中国語自体は取り入れることなく、日本語を漢字で表すと言う方向で適応しました。その後、より簡単な仮名を発明することで日本語の表記をさらに簡便にしましたが、これは世界的に見ても珍しい事例ではないかと言うことです。

仏教伝来のあと、朝廷では「鎮護国家」といって仏教に国を守ってもらうと言うことを言い出し、奈良の大仏のような巨大な仏像を作るなど国を挙げて仏教帰依ということをしますが、仏教と言う宗教は本来そのような役割を負うものではなかったのではないかと言うことです。
釈迦自身、国の王子として生まれましたがすべてを捨てて出家してしまいました。個人の救いを求めるためであり、国を守るなんていうことは元々望んでいなかったはずです。
ところが日本に入ってきた仏教は、「ご利益」期待の日本人に深く信仰され、挙句の果ては「鎮護国家」まで押し付けられたという見解です。言ってみればそういうことになるわけで、面白い見方でしょう。

歴史にあまり興味のない人でも、結構「三世一身の法」と「墾田永年私財令」は覚えているようです。これが実は現代の土地神話まで続く影響を与えていると言えば少しは興味もわくでしょうか。
そして、土地さえ持っていれば金持という現在の常識も意外とあやふやな根拠であるとも言えるということです。
公地公民の原則を崩してしまったこれらの法の施行から、全国で荘園化が進み貴族や寺社の領地となってしまいまいした。それが解消したのはようやく豊臣秀吉太閤検地がなされてからということで、その影響の強さも驚きです。さらに、土地の所属形態ということからは、明治の地租改正、第二次大戦後の農地解放までが関わってくるので全部を通してようやく理解できるようです。

クールジャパンといって日本独自の文化と言うものを売り込もうという動きも活発ですが、この遠い要因には「鎖国」があったそうです。鎖国の期間は江戸時代全般ですが、その間に外国の文化をシャットアウトした日本だけの文化が熟成されました。少々偏った文化と言う面もありますが、売り物にはなるのかもしれません。

歴史の面白さと言うのは現在とのつながりという著者の見解はもっともです。それを知った上で受験歴史を勉強していくのもよいのかもしれません。