爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

エネルギー文明論「石油無機生成説について」

石油と言うものは通常は古代の生物の産物が地中に埋もれて長い年月を経て複雑な炭化水素の混合物となったと考えられていますが、中には生物活動にはよらず無機化学反応でできたと考える研究者もいます。
彼らの研究は決して簡単に否定できるようなものではないのですが、大勢は有機生成説でありそれを強化する証拠も多数見つかっています。しかし、決着がついているとは言えません。

問題は真摯な研究を続ける研究者ではなく、その主張の一部を捉えて「石油はなくならない」などと言うことを語る人が出てくる事です。彼らには有機生成説の論点ばかりではなく、無機生成説の論点すら理解できていないのではないかと疑いを抱かざるを得ません。
ここに何度も書いているように、石油などの化石燃料の供給減少は現在のエネルギー依存文明の存続に極めて大きな影響を与えるものと予測でき、それを少しでも緩和するためには速やかな対策が必要なのですが、このような根拠の薄い楽観論はそれを激しく阻害します。ちなみに、「土星・石油」などのキーワードで検索してみると、あちこちのブログで「もう大丈夫」とか「安心した」などという書き込みが多くされているのが判ります。

石油というものは原油の状態で産出されますが、これは非常に多くの成分からなっており、精製してガソリンや灯油、重油、等々の製品にするとともに、多くの炭化水素成分として化学工業の原料としても使われます。また、天然ガスという形で採取される気体成分も元は石油とともに作られてきたと考えられ、これらはより低分子の炭化水素でできています。
その中にはごく低分子のメタン、エタン、プロパンなども含まれていますが、これらは生物活動で作られることも明らかですが(メタン発酵などのこと)、無機的に生成することがあるというのも間違いありません。実際に天王星海王星の大気中にもメタンは含まれているということですし、土星の衛星タイタンにはメタンなどが液体として大量に存在しているようです。これらは生物により作られたと言う可能性もないではないのですがほとんど考え難いところです。やはり無機反応で作られたのでしょう。

なにより、地球の石油が生物活動で作られた論拠として「バイオマーカー」と呼ばれる成分が普遍的に検出されることがあります。これは微量ながらも含まれるもので、その中には葉緑素から変換されたと見られる物質や、コレステロールからできた物質など、無機反応では生成し得ないと見られる物質があります。また、光学活性体という生物の酵素反応で作られたと見られる物質があるということでも生物由来と言うことが示されています。
これらの証拠にも、無機生成論者は「バイオマーカーは地中で接触した堆積岩から溶け出した」と反論しているということですが、いかにも無理な議論でしょう。

石油の無機生成説が土星のタイタンと関係すると言うのも何の根拠もないのですが、2005年に土星探査機カッシーニ土星周辺にたどり着き、いろいろな観察結果を送ってきた際に、メタンやエタン、さらにプロピレンも見つかったという報告があったということです。それを報道する記事に「石油にも含まれる炭化水素が大量に存在」という記述がありました。ここを誤解(曲解?)して「石油が無機生成する」ということになってしまったのでしょうか。
もちろん、石油とタイタンの炭化水素にはまったく関係はありません。

現在の地球の石油の中に、無機的に生成した成分がまったく含まれていないと断定するのは困難です。ごく微量であれば無機生成した低分子成分が含まれている可能性もないとは言えません。しかし、大半の石油成分はやはり有機生成であろうと思います。したがって、通説どおりに古代に長い年月をかけて藻類などにより作られた炭化水素が変化してできたものが石油であり、その量は有限であり使い果たせば無くなるというのは間違いないと考えます。
なお、現在研究が進められている「石油生産性藻類の培養」というテーマを見れば、現存する藻類で石油様の炭化水素を生産するものが存在するのは間違いないことであり、このような藻類の遠い祖先が古代に石油の元となるものを作ったと考えれば正に石油有機生成説の一つの証拠になると思います。