著者は新聞記者から医事評論家へ進んだ方で、本書にも医薬に関するさまざまな問題点について記されています。
ただし、2000年の出版ですので今とはかなり事情が変わっていることもあるようで、医薬分業もまだ進んでおらず、大学の薬学教育6年制というのも始まっていません。また、製薬企業のM&Aも国内ではほとんど無かった頃の話であり、それからの15年で相当な変化が起こっています。あくまでもその時点での著者の長年の経験からの感想ということになります。
著者は昭和初期の生まれということで、まだ結核が猛威を振るっていた時代を経験し、実際に小学生の時に感染しています。その時に打たれた注射がヤトニコンという薬で当時1本3円もしたそうです。それで1月に50円もかかったのですが、結局薬はほとんど効く事もなく、体力がつくことで自然に治癒したとか。それが著者の薬についての最初の体験かもしれません。
その後、特効薬と考えられたストレプトマイシンの開発で結核が抑えられていくのですが、実はそうではなくアメリカのデュボス博士のように栄養状態の改善で結核の流行は抑えられたという見方の方が正しいのかもしれません。
さらにペニシリンの開発で、感染症は劇的に抑えられました。しかし、その後あっという間に耐性菌が蔓延するようになり、薬と耐性菌のいたちごっこが続くことになります。さらにMRSAと言われる強度の耐性菌が出現してしまうのですが、著者の言うように「消毒を忘れ抗生物質だけを重視した」ためです。この辺の事情は一時私も仕事でかかわっていたことがあるため、馴染み深い話です。
薬にはプラセボ効果というものもありますが、現在の薬剤開発ではそれを取り除いた評価で決めることとなっており、二重盲検法という方法で実施したデータでないと使えないのですが、プラセボ効果は間違いなく存在するのにそれを使わないのは問題だというのが著者の立場です。しかし、どうやって使うのか難しそうです。
また、逆に薬害事件というものもいくつも発生しています。サリドマイド、スモン、血液製剤など挙げていくと限りないほどありますが、日本には多すぎるのではないかということです。その辺の評価は難しいでしょうが何らかの対応が必要なのでしょうか。
クスリに関しては大きな問題が山積しており、解決しなければならない問題も多いのですが、どのような検討がなされているのでしょう。もう少し勉強してみる必要があるかもしれません。