爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「事故の心理」鶴田正一著

これもかなり古い本です。購入したのはおそらく会社に入った頃の1978年位かと思いますが、初版発行は昭和43年、1968年で内容は大体1965年までのものを扱っているようです。50年前ということになります。
著者の鶴田さんは1907年(明治40年)の生まれで、心理学を専攻したあと海軍にも勤務、戦後は運輸省国鉄の関連部署を経て大学教授になり、事故の心理学的解明を長く検討されてきたようです。

50年前ともなると現在とはかなりの社会情勢の差があるようで、トラックなどの運転手も連続して何日間も運転して疲労が溜まった末の居眠り運転が頻発したり、酒酔い運転の禁止も甘くドライブインで運転手が飲むのも放任状態とか、かなりいい加減な時代だったようにも見えますが、かと言って現代はこれより改善されたと本当に言えるかどうか疑問にも感じます。

まだ当時は鉄道の大事故の記憶も新しいところで、実際にその事故の調査もされれいたのか詳述されていますが、桜木町の列車火災や三河島事故など歴史の彼方に去ったようなものが生々しく語られています。桜木町火災事故で多数の焼死者が出たのは非常コックがなくドアを開けられなかったためであるとして、非常コックを整備するようになったのですが、それが三河島の時には逆に働き、事故で止まったために乗客がコックを開けて線路に降りそこに対向列車が来たために多数の轢死者が出たとか。

また、終戦後になってから歩行者と車両の対面交通が実施され、「車は左、人は右」ということになりましたが、これも本書執筆当時にはまだ以前の感覚の人が多く混乱が続いていたそうです。「子供には学校で右側歩行の教育がなされているために道路でぶつかる」という「子供」というのは正に私たちの世代でした。その当時の大人は迷いながら歩いていたのかと驚かされます。

著者はさまざまな事故の裁判に証人として立った経験も多かったようですが、そのような検討を重ねた結果徐々に交通事故の対策もされてはきたのでしょう。先人の努力には敬意を払うべきでしょうが、まだまだ事故は泣くならないと言うのが悲しい現実です。