爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「自分の体で実験したい」レスリー・デンディ、メル・ボーリング著

著者のデンティさんは大学で生物化学を教えているということなので研究者と言うよりは教育者なのかも知れません。
原題を「Guinia Pig Scientists」という本書は、科学、とくに医学分野で自分自身で人体実験をしてしまった人たちの伝記です。現代でもそのような誘惑に負けてしまう科学者もいるようで、話は聞いたことがありますが、まとめたものというのは初めて見ました。
著者あとがきにもあるように、こういった話と言うのはまともに残されていないことが多いようで集めるのはかなり苦労があったようです。出てくる10人の人々もマリー・キュリー以外はほとんど有名な人は含まれておりません。少し昔であってもやはりこういった行為と言うのは禁じ手と言う意識が強かったらしく、まともには記録されていなかったということもあるようです。

18世紀イタリアの博物学者、ラザロ・スパランツァーニは消化というものを調べるために食べ物を袋や木の筒に入れて食べ、排泄されたものを調べてどうなったかを見るということを自分の身体で実験しました。消化という作用自体がまだ知られていなかった当時にどういったものが消化され、また残るかということをあれこれと調べたということです。
なお、スパランツァーニは火山の溶岩の流れ方と言うものにも興味を持ち、ベスビオ火山などで溶岩流の速さを測ったり、火口に降りたりと言った危険なこともしていたようです。

19世紀にはペルーで「ペルーいぼ病」と言われた病気が蔓延していましたが、原因も何もわかっていませんでした。そこでダニエル・カリオンという医学生が患者の血液を自分の身体に接種し症状を見るということをしてしまいます。
症状の進行を記録し、どのように表れてくるかを見て行き、結局死んでしまうのですが、その結果感染症であることがわかりました。この病気は今では「カリオン病」とも呼ばれているようです。

書き表された10人の伝記以外に、著者あとがきには日本の寄生虫学者藤田紘一郎さんがサナダムシを飲んで自分のアレルギーが治るかどうかを見たという実験についても書いてあります。これもやはり禁じられている人体実験であろうと言うことです。
特に医学者にとっては最後には人体で自説の当否を見てみたいというのは逃れがたい欲望なんでしょう。これからもやる人はいるでしょう。