爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「スウェーデンに学ぶ”持続可能な社会”」小澤徳太郎著

著者の小澤さんはスウェーデン大使館に環境保護オブザーバーとして勤務したあとに環境スペシャリストとして独立し、その後各地の大学でも教えてこられています。
またいろいろな環境問題での発言もされており、著書も多いようです。

持続可能社会という言葉はよく使われていますが、まったく勘違いをして使っている人も多く、いくらスウェーデンでも国策として動いている以上は完全なものではないだろうと予測して本書を読み始めましたが、予想以上にしっかりしたもののようです。
ただし、あくまでも本書はスウェーデンの政策というものを紹介はするものの、重きを置いているのは日本の政治経済の批判でありそういった構成になっているということのようです。
なお、本書出版は2005年で小泉政治満開の時代ですが、その後も本書に述べられている危惧はさらに拡大する一方のようですので、本書の主張はまったく色褪せることはないように見えます。

21世紀日本が直面する2大問題は「少子高齢化」と「環境危機」ということです。スウェーデンでも同様の問題に当たっていますが、日本と異なるのは「バックキャスト」という方法で立ち向かっているということです。
バックキャストとは、将来のあるべき姿から現在取るべき政策を決めるということだそうです。スウェーデン政府では政策の中にもこの用語を用い、着実に向かっていくと言う姿勢を見せているということです。
日本の政策はそれとは正反対で、「フォアキャスト」と言うべきもので、現状を成長・拡大させていくということしか頭になく、将来像というものはないということです。

環境問題も日本では公害対策だけが環境であるかのような取り組みが続けられてきました。公害だけに矮小化されてきたともいえることです。法律としては「公害対策基本法」だけといった状況が続いてきました。
スウェーデンでは1960年代から様々な環境関連法が制定され、統合して「環境法典」といった形にされているそうです。
日本でようやく省エネが話題になっても、一方ではエネルギーや資源の浪費につながる巨大施設や過剰設備の建設を経済成長の名の下に実施しています。それで国民に省エネなどを呼びかけてもまったく意味がありません。

風力発電などで、CO2削減がされるという考えをする人もいますが、風車は「CO2削減装置ではない」という著者の意見は正確です。「年間800万キロワット時の風力発電で、CO2が800トン削減される」という報道があったのですが、この風車の設置で化石燃料の燃焼が削減され、800トンのCO2発生が抑えられた場合のみそのような表現ができるのであって、そのような事実がない以上この表現は間違いと言うのは正にその通りです。
原発についてもその議論のほとんどが安全性と廃棄物の危険性だけに限られており、本書の中で「もしも100%安全で、廃棄物の処理も100%完全に可能になれば、原発を進めてもよいか」と著者が問いかけています。このような条件をつければおそらく5%の「何でも原発は絶対に嫌」という人を除けば原発推進となるでしょう。
しかし、著者はその2条件だけクリアしても原発の推進はできないと言っています。安全性と廃棄物処理が完全であっても、原発をさらに推進してエネルギー供給を増やせば社会のあちこちで大変な事態が発生するからと言うことです。
日本では家電などの省エネ技術は非常に進んでいますが、その結果その家電の使用数が増え、エネルギー使用全体量はかえって増加してしまっています。これが持続可能性を損なっていることになります。

経済成長はいつまで可能かという章も設けられています。経済成長ばかりを追い続けている日本の政策で環境問題がさらに厳しさを増しているのですが、経済学者ではそのような認識を持つ人はほとんどいません。そういった経済学者の論理を無批判に受けるだけの政治家により決められた政策もそのような側面はほとんど見向きもされません。その先にあるのは破綻だけというのも「正にその通り」と思います。

スウェーデンでも政策の失敗と言うものが無かったわけではなく、原発の設置というのも失敗であったという位置づけですが、それでもその失敗を取り戻すということで早くも1980年代には原発廃止を決めてその方向で進められているということです。スウェーデンのエネルギー供給の計画では、水力が最も重要視され、過渡的には原発も利用されるものの、将来的には廃止の方向に向かっているそうです。火力発電には頼ることなく、自然エネルギーにも幻想を抱くことはないようです。それで不足しないようにエネルギー消費自体を削減していくという方向性だということです。
経済成長のためにとにかくエネルギー供給増と言い続けている日本とは格段の差です。

スウェーデンでは高福祉、高負担というのが特徴でしたが、こういった点を日本ではことさら貶めるような論調が目立ちます。しかし、実際は日本の現状というものはそのようなスウェーデンを批判できるようなものではなく、さらに悪化を続けているようです。
スウェーデンと日本の経済実態を研究している、東大経済学部の神野さんの著書に、「日本は景気回復という一兎を追い、一兎も得られなかった。ドイツ・フランスは財政再建という一兎を追い、一兎だけ得た。スウェーデンでは景気回復と財政再建という二兎を追い、二兎を得た」という記述があるそうです。
しかし、日本では「スウェーデンは人口が少なく小国だからできた」といった論調がもっぱらで、正当に判断されていないそうです。

「緑の福祉国家」を目指すというスウェーデンの政策というものは、非常に魅力的に感じます。さらにいろいろと調べてみたいものです。
また、この著者の小澤徳太郎さんという方の議論にも賛同できる点が多く興味を惹かれました。他の著書も読んでみたいと思います。