爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「環境工学入門」佐川治男著

これも古い本で、買ったのは1978年、就職して工場勤務になってすぐだと思いますので、ようやく環境というものに目が開いたという頃でしょうか。しかし、この本の初版はそれより前の1973年です。
著者の佐川さんはおそらくもうご存命ではないでしょうが、1911年の生まれで朝鮮人造石油、朝鮮窒素肥料、旭化成などに勤務のあと環境工学研究所を自ら設立という経歴の方ですので戦前より化学工業の現場でいろいろと環境に関する知見を集めてきたものと思います。
本書執筆時にはまだ日本でも都会の大気は汚染が高濃度であり、光化学スモッグが発生が頻繁に起こっていたはずです。また水質汚染も各地で問題になっており、水俣病もようやく水銀汚染ということで原因が確定はしたものの問題解決などはまったく手につかない頃だったと思います。
そんな中ではありますが、今の目から見ても本書はなかなか高度な内容を持っているように見えます。ただし、現在では隔世の感がありますが、アメリカの方が公害防止の先進国ということで各地の取り組みを好意的に書かれているのが意外な内容とも思えます。

水俣病は73年当時はまさに現在進行形の問題でした。発生が知られたのは53年ですのでかなりの時が経っていましたが、原因を確定させるための動きにも良く知られているように国側、企業側の妨害が強く、なかなか進まなかったのですが、それがようやくチッソ排出の水銀が有機水銀となり魚食を通して体内に蓄積し神経障害を起こしたという原因が明らかになりました。本書にはさらに多くの事例が詳説されており、同様の工程を持っていた工場も他に多数ありそこで水銀中毒が起こらなかった(まったく無かったかどうかは怪しい)のは幸運だけだったようです。

都市の大気汚染では、四日市喘息などという言葉もあったというのは記憶に残るところです。当時は工場と自動車が汚染源の双璧でした。現在では工場の排出はかなりの程度まで抑えられ、自動車も相当削減されては居ますが、わずか40年前には日本も今の中国並みの状況だったということは忘れてはいけないことでしょう。
自動車公害防止の装置としては、本書にはスターリングエンジンも紹介されています。残念ながら現在でもその実用化は成功していませんが、これを挙げるということでも著者の見識は明らかです。

工場の設計に当たっても有害物を外に出さない(今ではゼロエミッションという言葉がついていますが)工程を作り上げるべきというのは正論です。なかなかそこまで至るのは難しいことですが、必須というべきでしょう。

本書はブルーバックスですので、技術者の中にも読んだ人は多数いたはずですが、少しはこの本の内容を気にかけて仕事をしてきたでしょうか。そうでなかった人も多かったのではと思います。