爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「趣味の焼酎つくり」高千穂辰太郎著

日本では酒税法の規定上、市販の焼酎などを使って浸漬する果実酒以外の自家での酒類製造は禁じられていますが、この本はそれに真っ向から逆らい家庭での焼酎造りの方法を記したものとなっています。

 

著者は宮崎出身の「高千穂」さんということですが、偽名かもしれません。もしも誰かがこの本の記述をその通りに実施して税務当局に検挙されたら著者も罪を問われる可能性も残されていると思います。

 

実は私自身かつては発酵会社に勤務し酒類製造にも関わっていましたので、業務としての焼酎製造にも触れていました。したがって、もしも自分の家で焼酎を作ってみるならという方法は判っていますが、(もちろんやりませんが)この本に書かれている方法とは若干違うようです。

それでも本書著者は出来上がった焼酎の品質には非常に自信をお持ちのようで、プレミア付きの「幻の焼酎」よりも旨いという自画自賛です。

 

 まずは蒸留装置の自作から、寸胴型の鍋に細工をして蓋の上部から蒸気を抜くようなパイプをつけ、その先を冷却装置に導いて復水することで蒸留液を得るようです。

伝統的な蒸留装置をそのまま応用したようなものですが、外部からの加熱での蒸留は焦げやすいのではないかと思います。

冷却装置は水槽状にしたものの中のパイプを通すことで液化します。まあアルコールが逃げることはないでしょう。

 

もろみ液の発酵はドブロクの製造法を参考にしているとか。米や芋などの原料を蒸すなどしたものを、ミキサーにかけて潰し、それに水と購入した麹を加えて発酵させます。

酵母は加える場合もあり加えない場合もあるようで、酵母を入れなくても発酵したと大発見のように書いてあり、「新しい技法発見」と書いてありますが、これも当然のことです。

麹の製造の場合、原料米を蒸した後に麹の種菌を加えて生育させるのですが、開放系で製造するために周辺の酵母が入り込むことはあり得ます。そのような酵母が入り込んだり、発酵タンクでも周辺の酵母が入り込むために昔の酒造では酵母を加えずに発酵が進んだのですが、それでは毎回同じような酒を造ることができず、不安定なために培養した酵母を加えるということが行われるようになりました。

本書はその過程をたどっただけのようです。

 

実は、業務用の現場仕込みでは、麹は自家製造が当然で48時間程度生育したものを使います。それをまず水に投入して酵母を加え「酒母」というものにし、それで数日間保温して発酵させ、それから「掛け原料」のコメやイモなどを蒸して加えて本発酵を開始するのですが、本書記載のような最初から全部一緒くたに投入し、しかも掛け原料をミキサーですりつぶすということがどのような影響を及ぼすのかは良く分かりません。

しかし、焼酎の味と言うものに影響を及ぼす第一は麹の出来だと言われています。

それを市販の麹で済ませている以上は毎回大差ない出来になるのかもしれません。

 

なお、本書の蒸留工程ではもろみを最初に濾過してから濾液だけを蒸留しています。業務ではこんなもったいないことはできないのですが、焦げ防止のためには仕方ないのでしょう。そのためか、取れ高はかなり低いようです。もちろん、美味しければ多少のロスは構わないのでしょうが。

 

他にも各種の焼酎を自作しておられるようです。この各所に突っ込みどころがあるのですが、黒糖焼酎もある程度の味があり、「白砂糖にイーストを入れて作ったものとは大差があり、やはり黒砂糖に不純物が多いためか」だそうです。

そうじゃなくて、麹を使ったためにその味が付くんですが。

トウモロコシ焼酎も作ったがバーボンにはならないとか。それも当然です。

 

麦焼酎は麦の香りが残り、市販の麦焼酎とは違うということです。これも壱岐麦焼酎以外は「減圧蒸留」ということをご存じないのかもしれません。

大分の麦焼酎、熊本人吉の多くの米焼酎では「減圧蒸留」という技法を取り入れており、その結果昔の焼酎のような臭みが減って一般向けにも売れるようになりました。

その反面、原料由来の香味が失われてしまい面白みがないという批判もあります。それに対抗して「常圧蒸留」にこだわる酒造会社も多くあります。

このような簡単な蒸留装置では減圧は不可能ですので、常圧しかないのですがこれも善し悪しかと思います。

 

自家での酒類製造をほぼ完全にシャットアウトしている現在の日本の酒税法には問題も多いと思いますが、一応は法治国家ですのであまり公然と反逆するのもどうかと思います。

それ以外にも製造技法上もあれこれと問題点がありそうです。まあこれを信じて自分で作る人は居ないですよね。