火山学者の鎌田さんは火山の知識についての書籍も多数出版されていますが、この本はそういった知識以外の随筆的な思いを書かれたものです。
したがって、特に火山や地震の災害発生と科学者の研究との関連など、知識を伝えるということに関しての思いと言ったものも含まれています。
本書出版は2011年7月で、ちょうど原稿を書き上げて見直している最中に東日本大震災が起こったそうです。
そのあとにも余震や関連する地震、さらにそれらによって刺激されたかのような火山噴火も続いています。
また東南海の巨大地震も危惧されている中で、科学者の研究とそれをいかに防災、減災につなげるかと言うことも重要になっています。
著者は火山学が専門ですので火山噴火の災害についての記述が多いのですが、今求められているのは火山についての研究をさらに進めるとともに、住民や関係者への知識の伝達、アウトリーチというものだそうです。
基礎科学というものの重要性を認識してもらうためにもそれは必要なのですが、その人材が日本では特に少ないようです。
「伝える」から「伝わる」へという章の題目にもしていますが、一般人にいかに専門知識を「伝えるか」という視点がこれまでは一般的でしたが、受け手の考え方(フレームワーク)に合致する情報伝達をしていけば自然に「伝わる」ということがあるようです。
科学者側の意図だけでいくら「伝えよう」としてもうまく行かないことが多いようです。
「科学文学」というものの重要性にも触れています。ここで取り上げられているものが、石黒耀さんの書いた「死都日本」と言う大規模カルデラ噴火を扱った小説です。
実はこの本は以前に読んだことがあり、それでカルデラ噴火と言うものの恐ろしさ、重要性を認識するようになったのですが、その当時から火山学者の間でもその小説の科学的描写の正確性が賞賛されていたということでした。
鎌田さんもそれを認めていたそうです。
そして、このような科学的知見を正確に取り上げて、さらに文学としても面白い作品が次々と作り出されるようになればさらに一般人の科学への興味を惹くことができるのではと言うことです。
でも難しい話でしょう。科学的に正確な知識を持っている人は往々にして物語を作らせるとつまらない話しか書けないし、その逆も多いのでは。
著者のいろいろな側面を感じることができる本でした。なお、有名な人ですが年齢は私とほとんど同じとは思いませんでした。もっと年上かと思っていました。