爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「日本の幸福度 格差・労働・家族」大竹文雄、白石小百合、筒井義郎編著

人が幸福と思うかどうか、いろいろな要素が組み合わさった結果としての感覚ですので非常に解析するのが難しいものと思いますが、2002年から始まった21世紀COEプログラム(The 21st Century Center Of Exellence Program)の中で大阪大学を中心とした幸福論を扱うプログラムの成果を、一般向けにできるだけ読みやすい形にして出版したというものです。

しかし、とはいえ相当学術的な書き方になっていますので読みやすいものではありませんでした。

 

どういうことで、人間は幸福と言うものを感じるか、欧米でも先行する研究は多数あり一定の結果は得られていますが、日本の場合とは差もありそうです。この研究によりその解析も進められています。

 

調査方法としては、統計学的に有効な方法で選択した人々にアンケート調査を直接行い、回答を得るというものです。あくまでも答える当人の主観によるものですが、幸福と言うもの自体が非常に主観的なものであるので、この方法も意味があるという解釈がされています。

世界的な価値観調査としては、世界価値観調査(wvs)というものが行われており、60か国の8万人に対して同様の調査がされており、2000年の調査では日本の幸福度の平均は60か国中35位となっているそうです。

 

幸福感というものは人間を取り巻くすべてのものから影響を受けますが、本書ではその中でも特に所得、それに関連して就業と失業、また経済的な不公平のもたらす格差、それが国内でも偏在する場合の地域間格差、家族の問題として結婚、子育ての影響等について記載されています。

ただし、たとえば地域間格差にしても所得の順に都道府県を並べた順位と、幸福感の順位とが一致するわけではありません。一般的に所得が高い方が幸福と感じることが多いのですが、もちろんそればかりではなく他の要素も影響します。

そういった要素を学術的に処理して希望する影響のみを取り出すという解析が施されていますので、見た目には非常に分かりにくいものとなっています。

ダントツで所得の低い沖縄県が幸福度調査ではそれほど低くないというのも、この事例だけを取り上げれば週刊誌ネタにもなりそうな簡単な話なのですが、統計的な処理をあれこれ施していくとそう単純な話にはなりません。

さまざまな調整を施した調整済み幸福度というものを見ると、かえって沖縄は上位にくるようです。

 

結婚の幸福度でも、男女差は大きいものですが、それをアメリカの例と比べると根本的な差というのが出てくるようです。

10年以上前の調査ですので今とは少し違うかもしれませんが、共働きの夫婦で妻の収入が増えることを幸福と感じる夫が多いのはアメリカで、日本ではそのような傾向が見られないようです。

逆に相手の収入の多寡が幸福度に反映しないのがアメリカでは妻なのですが、日本では夫になるとか。

共働きでも家事労働が圧倒的に女性に振り向けられる日本の状況と言うものが影響を及ぼしているようです。

なお、子供の存在というものは特に女性に幸福度の低下をもたらすそうです。夫の育児や家事への参加が少ないということが影響しています。

 

細かい解析結果は異なりますが、世界各国ともに幸福と感じている人が多いようです。

収入を増やすだけが幸福感を増すということはないようなのですが、具体的に政策に反映させるのは難しいことでしょう。それでも本書に見られるような幸福感というものの解析ということは絶対に必要なことのように思います。