爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「”昔は良かった”病」パオロ・マッツァリーノ著

著者は「反社会学講座」などの著書で日本の社会についてウイットに富んだ指摘をされている方で、これまでも何冊かの本を読んだことがあります。その著者の最新刊ですが、新潮45に2013年から1年間連載されたシリーズをまとめたものです。

 

「はじめに」に書かれているように、庶民文化史と言うものを研究していくについては、「むかしはよかった」と言うのは鬼門だそうです。人間の記憶はあやふやなもので、10年、20年前のことでもあてにはなりません。まして50年以上前のこととなると都合よく記憶を整理してしまい良かったことだけが残るということになるようです。

戦争などの大きな歴史は史料から検証されますが、庶民文化史と言うものはなかなかそこまで手を掛けられることが少ないようです。そこで、できるだけ確かな史料で見直してやろうじゃないのと言うのが本書です。

 

振り込め詐欺は相変わらず猛威を振るっており、2013年には被害額が過去最高を記録したと報道されています。しかし、「被害件数」は「激減」しているそうです。

2004年に25000件ほどだったものが、2012年には6300件にまで減ったそうです。このカラクリは、以前のようにオレオレ詐欺が多かったのとは変わって、「金融商品取引詐欺」が増えたために一件当たりの被害額が増えたためだそうです。

「要するに欲の皮のつっぱった年寄りがダマされるケースが増えただけ」と著者は極めて辛口に指摘しています。

 

長者番付というものが以前は存在し、そのトップを飾った人がインタビューに答えるなんていうこともあったのですが、いつの間にやら長者番付自体が無くなってしまいました。

以前の長者の名言などと言うものも新聞には記録が残っているのですが、どうもくだらないことを語る人が多かったようです。

長者という人の職業は時代とともに変わっていき、60年代は大会社の社長、70年代は土地成金、80年代は開業医だったそうです。しかし、2004年をもって長者番付は廃止されてしまいました。いろいろな理由はあったのでしょうが、怪しい動機ばかりが考えられるようです。

 

「きれいなおねえさんは好きですか」というのは有名なCMの文句ですが、昔は美人というものを求める場合もストレートに出てしまっていたようです。

1930年の新宿三越開店の時の店員募集広告には堂々と「なるべく美人」という条件が挙げられていたそうです。

1929年には文部省が女子職員を募集した時の採用方針が「すこぶるつきの美人たること」だったとか。ここまで開けっぴろげだとかえって微笑ましく感じられますが、今じゃ絶対無理だろうな。しかもそれが政府というから。

 

最近の決まり文句に「安全・安心」がありますが、この水と油ほどに異なる言葉をつなげて唱えるというのは1985年頃からだそうです。当時のアメリカからの外圧で日本では許可されていなかった食品添加物を一挙に認可することになったのですが、そこで厚生省と食品添加物メーカーが始めたのが「安全・安心キャンペーン」だったということです。それが他の業界にも広がり、1995年頃から爆発的に広がってしまいました。

原発の関係者も2000年頃には盛んに安全安心と唱えていたそうです。それがどうなったかはご存知ですねというのが著者らしい書き方です。

 

熱中症で倒れる人はかなりの数に上っているのは最近だけではないようです。「昔はそんな軟弱ではなかった」と思い込んでいる年寄りが多いようですが、決してそんなことはなく記録を見ると明治時代から子供がバタバタ倒れていた新聞報道がいくらでも存在しているようです。

ひどいところでは軍隊でも訓練中に熱中症(昔は日射病と言っていました)でバタバタ倒れ、ひどい場合は死者も多数出ていたとか。最初の頃は新聞も軍を批判し軍も是正しようとしていたのですが、そのうちにまったく無視するようになって戦争に突入だそうです。

 

面白おかしく書いてありますが、結構目から鱗というものが多く、参考になります。誰かに話してやりたくなるような内容でした。