爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「高度経済成長と生活革命」国立歴史民俗博物館編

これは平成22年に国立歴史民俗博物館に第6展示室として「現代」を開室するにあたり歴博フォーラムとして平成21年6月に本書題名で開催された発表と討論の内容をまとめたものです。

歴史民俗博物館の総合展示室「現代」で高度経済成長と生活の変貌というコーナーを設ける狙いと言うものは昭和30-40年代に起こった生活変化の実態を描くものにありました。

高度経済成長というものは技術革新、輸出増大、設備投資、そして政府の所得倍増計画などが関わってきますが、なかでも最も大きかったのは農村から都会への人口移動でした。

展示コーナーの内容もそれに沿ったものになっているということです。

 

フォーラム当日の構成のまま本書も並べてあります。

まず基調講演として一橋大の中村政則さんが「高度経済成長とは何だったのか」と題し講演されました。

続いて、「現代日常生活の誕生」「高度経済成長と地域社会」「日本の高度経済成長の特徴」「高度経済成長の諸条件と農業部門の位置」「電気洗濯機の記憶」と各演者が発表し、その後討論となりました。

 

高度経済成長期の家族変動と題し東京大学の岩本通弥教授が指摘していることは少し盲点でした。

合計特殊出生率で見るグラフは良く見かけるもので、昭和23年からたどると減少の一途をたどりこのまま日本人が消滅してしまうかの印象を受けるのですが、実は大正時代からの「平均兄弟数」というものをグラフにしてみると「5人以上」であったのは昭和に入ってから第2次世界大戦までのごく一時であったということです。

それ以前は兄弟が1人・2人という例がかえって多く、人口は急増するということはなかった。なお、通説のような間引きや堕胎というものの影響も実際は明治大正期にはそれほど大きくはなく、一般家族レベルでの人口調節システムのようなものがすでに機能していたのかもしれないということです。

それが、昭和に入り急激に増加に向かったことが戦争に向けての異常事態だったとか。

 

日本の高度経済成長の特徴として成城大学浅井良夫さんが話していることは、高度経済成長は日本にだけ見られたものではなく、戦後早い時期にはドイツ・フランス・イタリアなどヨーロッパ各国、そして1970年代以降は韓国・台湾、その後中国を始めアジア各国が同様の成長を見せており、日本を特別視する必要はないということです。

 

高度経済成長の終焉ということで東京大学の加瀬和俊教授が「アメリカの支配力が弱まり産油国の結束により安価な原油が入らなくなったという条件変化による」昭和48年のオイルショックという劇的な形で表面化した。というのが核心をついた表現でしょう。

このブログの他のところでも書いたのですが、高度経済成長とは石油エネルギーの開放というものであったと私は考えています。それが価格高騰に向かえば終わってしまうのも当然であり、その後の経済成長が難しい理由でもあります。

 

本書はあくまでも生活革命という人の暮らしそのものへの経済成長の影響を見たものですので、深い考察があるものではありません。しかし、ちょうどこれが始まる頃に産まれ高度経済成長とともに育ってきたような私にとっては書かれている内容がそのまま人生の記憶につながりました。