爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「甲子園が割れた日 松井秀喜5連続敬遠の真実」中村計著

1992年8月、甲子園での全国高校野球選手権大会での松井秀喜星稜高校が高知の明徳義塾高校と対戦、大会前から非常な評判であった松井を5打席連続敬遠と言う策で封じ込めた明徳が勝利しますが、対戦中から観客の非難は激しく試合中に物が投げ込まれたり、その後も様々な批判を受けました。

その時著者の中村さんは予備校に通う学生で試合の様子も直接は見ていなかったのですが、その後これに関係した人々にインタビューをして全体像を掴みたいという希望を持つようになり、何年もかけて各地に出かけて調べ続けました。

実際に投げていた明徳の河野投手、明徳の馬淵監督、星稜の山下監督、双方のチームの選手から松井本人に至るまでほぼ全員の関係者に取材をし、あの事件の真実は何だったのかを明らかにしようとしています。

取材を始めたのが10年後ということもあり、すでに選手たちは様々な方面に散って行ってしまっており野球とは関係のなくなった人たちがほとんどですが、まともに話してくれる人もあり、まだ事件を引きずったままの人もあり非常に大きかったことなのだということが分かります。

 

試合後の脅迫なども激しかったようで明徳義塾チームはまったく平常心どころの話ではなくなってしまい、次の試合の広島工業戦ではそれまで練習試合では完勝していた相手に大敗して甲子園を去ります。

野球の専門家からの批評でも、まともに相手をしてもそこまで松井が打ったとも思えないようですし、特にランナーの居ない状態で敬遠するというのは極端に過ぎたのかもしれません。

松井を歩かせた次のバッターがまったく当たらなかったのが星稜の敗因となりましたが、そもそも甲子園で戦えるほどの選手と言うのは当時の星稜には松井ともう一人だけであとの選手はかなりレベルが低かったようです。

 

非常に印象の強かった事件ではありますが、それにライターとして総力をあげて取材を続けたという著者も大したものです。それによって高校野球というものに対する人々の考え方も多様であるということが見えてきます。

それらのすべての人々を巻き込んで成立しているのが高校野球と言う一つの社会なのでしょう。