爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「防災・減災につなげる ハザードマップの活かし方」鈴木康弘編

水害や地震・火山などの災害に対してハザードマップというものが作られ、行政から配布されているということは判っていましたが、このところの天災の多さにその重要性は増すばかりです。

本書は今年の3月出版で、名古屋大学減災連携研究センター教授と言う編者の鈴木さんが中心に、防災関係の研究者が執筆者としてまとめられており、広島市の土砂災害、木曽御嶽山の火山爆発まで触れられています。

 

ハザードマップは主に地方自治体が作成して住民に配布していますが、地震・水害・土砂災害・火山・津波など災害の種類に応じて別々に作られており、さらに洪水では河川ごとに作られるなど、分かりにくいものとなっています。さらに行政側も検討不足のまま作っているものもあるなど、その効果が疑問のものもあるようです。

 

ハザードマップというものが我が国で作られるようになったのは、1995年の阪神淡路大震災からということです。神戸の真下に活断層があるということは専門家にはよく知られたことでしたが、住民にはほとんどその知識がありませんでした。そういった情報公開を進めるという意味でハザードマップと言う形で公開されるようになりました。

しかし、津波に関していえば宮城県福島県では明治以降の津波被害が少なかったためにハザードマップでも想定が甘かったようです。それが東日本大震災の時の住民の避難判断に逆効果になったということもあるようです。

ハザードマップを信じるなという防災教育の方が役に立ったということはハザードマップの存在価値自体が疑われることなのですが、そうも言えない一面もあります。

正確な予測は困難であるとか、かえって誤解を招くといった批判もあります。危険性が低いと言われた地域では住民が油断してしまうということもありそうです。

 

さらに、ハザードマップの性格として「個別表現型」と「リスク合算型」とがあり、リスクを合算してしまうと被害の大きさが過剰にとらえられるので、あきらめてしまう住民もいるそうです。

しかし、問題はあるもののハザードマップをさらに改善し、防災教育に生かしていくということが必要なことなのです。

 

ハザードマップというものを改めて定義してみると、その目的とは「災害から逃げる」「事前対策を計画する」「災害を具体的に知る」ということがあり、その種類とは、実際に発生した災害を示す、災害の発生に関わる土地の性質を示す、災害の発生しやすさを示す、災害の発生場所を予測する、被害の状況を予測する、災害発生後復興に役立つ情報を示す、というものがあります。

 

東日本大震災の際の津波被害はその地域にかつて存在した津波ハザードマップとも関係します。

津波の高さを示す地図が配られただけで、自分の家はそこより高いと安心して避難せずに被害にあった人もいますが、地元と大学がハザードマップの改善に取り組み、ハザードマップの限界を良く周知していた地域では被害も少なかったそうです。

その東北学院大学の宮城教授はハザードマップは完成品を住民に渡すのではなく、未完成な状態で渡して自分たちで調べて完成させるということを提唱されています。

 

さすがにこの前の鬼怒川洪水は本書には触れてありませんが、洪水のハザードマップと言うものも作られています。しかし河川の堤防決壊というものはどこが切れるかと言うことも想定はできず、その場所によって被害の出方も大きく変わるために一つのマップだけで判断することはできないようです。

 

土砂災害に関しては昨年の広島市北部の大規模土砂災害が説明されています。ハザードマップは2014年8月までを目標に作成されていたところでした。また安佐南区ではそれが遅れていたのですが、広島県による調査は終わっており被害を受けた全域が警戒区域になる予定だったということです。この辺の立ち遅れはあの条件の悪い広島では気になるところです。

 

どうやら行政がおざなりで作ったものは役に立たず害もありそうです。やはり住民が参加してより良いものを作っていくという活動が大切なのでしょう。