爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「”対米従属”という宿痾」鳩山由紀夫、孫崎享、植草一秀著

顔ぶれを見るととんでもない連中の発言のようにも見えます。

鳩山さんはもちろん民主党政権の総理大臣でしたが、半年足らずで退陣を余儀なくされました。その後も中国や韓国に渡り様々な発言をしており、「国賊」呼ばわりをするものも居ます。

孫崎さんも尖閣竹島問題での発言では大きな反発を読んでいるようです。

植草さんは数度の痴漢事件で有罪となるなど、存在自体を否定されるような扱いです。

 

しかし、この本に書かれていることによれば、鳩山さんの政権担当時代の行動とそれに対する反動を見れば明らかなように、終戦後これまでほぼ全時期に渡り続いてきた「対米従属」という体制に逆らったことで権力側の総攻撃を受けて葬り去られようとしたということで3人は共通しているようです。

そして、そのような逆風にも関わらず果敢に意見を発信し続けています。

もちろん、彼らの言葉がすべて真実とは言えないでしょうが、どうも世間一般の議論ではなく彼らの方に真実があるようにも見えます。なにより、鳩山、小沢に対する総攻撃がそれを実証しているように見えます。

 

孫崎氏は「戦後史の正体」という本を著し、そこでアメリカの戦略にひれ伏している日本の戦後史を明らかにしました。

また、植草氏は現在の既得権益集団を「米、官、業、政、電」と表現しています。アメリカに従属し日本の国富を売り渡すことで自らは甘い汁を吸おうとしている人々のことで、官は官僚、業は大企業、政は政治家、そして電は大手メディアを示します。

鳩山政権がアメリカとの距離を置くという意志を示した時に総攻撃を加えたのはこれらの権益集団でした。

 

民主党政権というものは大失敗だったという評価で、それがその後の安倍政権の大勝につながったのですが、実は鳩山政権が対米政策変換を唱えたことに対しての党内からの抵抗もあり、また前記の既得権益集団の攻撃により鳩山退陣、小沢も幹事長辞任ということになって党内クーデター成功で、自民党より自民党らしい菅・野田政権につながったということです。

あの執拗なまでの検察の攻撃と、それを援護するメディアの報道にはひどい違和感があっただけに、これを読んでようやくはっきりと構図がつかめた思いです。

鳩山政権としては、沖縄の基地に関する発言と、東アジア共同体というものの構想を最初に主張しました。これがアメリカの虎の尾を二つとも踏んでしまったということで、直接アメリカから政権攻撃の指示も出ていたということです。

 

領土問題に関しては孫崎さんの持論の解説から始まっています。現在の係争地はいずれも「日本固有の領土」と現政府は主張していますが、実はポツダム宣言によって日本の領土は「北海道・本州・四国・九州と連合国が決めた島である」とされており、それを受諾して講和したのであるからそれが「歴史的に定まった領土である」ということです。

そして「連合国が決めた島」については、アメリカがその後のソ連との対立の状況の中で様々に態度を変えているためにはっきりしない点が多く、混乱はアメリカによって作られたということのようです。

 

戦後の対米従属という関係が作られていく過程では吉田茂岸信介という総理の役割が非常に大きいものでした。安倍晋三が祖父岸信介を崇拝するあまりに現在のような政治状況を作り出していると思っていましたが、実はそう簡単な話ではないようです。

岸信介はそこまで徹底して対米従属というものを勧めようとはせず、かえって独自の道を求める面があったようです。60年安保改定の際の首相で安保反対デモの矢面に立ち辞任に追い込まれたのですが、実はその改定安保にはアメリカの暴走に巻き込まれないような枠組みを入れようと努力したそうです。

しかし、吉田茂は岸とはまったく逆に完全に対米従属を推し進めました。このあたりの世間の評判とは相当差がありそうです。

 

安保法制やTPPなど、現政権の対米従属(隷従と言った方がよいかも)政策推進はさらに進みそうです。自主独立を目指した鳩山政権を倒した勢力について検証していくことが必要なのでしょう。