爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「悪税が日本を滅ぼす」大村大次郎著

著者は国税庁の調査官として10年間勤務のあと、退職して著述業になった方です。

税については詳しいということから、日本の社会構造自体への税の関わりについて、何冊も本を書かれているようです。

 

税金は使い方でも社会の構造を変えてしまいますが、取り方でも大きな影響を与えるということは私も考えていました。しかし、このように格差社会と言われている現状も税の取り方で出来てきたという指摘は詳しい実情も交えての説明だけに説得力があります。

 

以前の税制改革で「日本は直接税が高すぎるので間接税を増やす」という話がありました。しかし著者によると世界的にもそれほど間接税が低いわけでもなかったようです。

しかし、その主張が受け入れられ消費税の創設、税率引き上げが相次いで行われました。その収入増で国債を減らしたということもなく、実はその財源で法人税所得税相続税の減税が行われたわけです。それも高額所得者の最高税率を減らすという方策が取られました。

その結果、大金持ちがさらに優遇され、誰にもかかる消費税のために貧困者はさらに貧しくなってしまい、その結果格差社会がひどくなっているということです。

 

なお、日本の税制としてはそのような金持ち優遇と言う問題点もひどいものですが、それ以上なのが、「税金の取りすぎ・使い過ぎ」だということです。

税金と社会保険料を合わせた国民の負担率は実に40%に上っています。江戸時代でも実質の年貢の比率は3割だったということなので、それよりもひどくなっています。

北欧などは日本よりもっと負担率が高いという指摘もありますが、これらの国は日本よりはるかに充実した福祉制度を持っています。日本は福祉はそれほどでもないのに負担だけが高くなっています。これは無駄な公共投資やその他の金の不公正な流れによるものです。

さらに日本では公共料金も非常に高くなっています。これも貧困者にも同様にかかってくるためにさらに負担が厳しくなっています。

 

社会保険料も収入により掛け率が定められており、収入が増えるに従いだんだんと上がっていくということは知られていますが、意外に知られていないのが上限があるということです。実は年収1000万円くらいの人が一番負担率が高く、それ以上になると収入が増えても上がらないそうです。

したがって、1億円の収入がある人でも1000万円の人と一緒ということで、社会保険料の負担率は実に2%しかないことになります。これも富裕者優遇制度でしょう。

 

税金の無駄使いという面では3つのものが挙げられます。

一つはキャリア官僚の天下り先である「公益法人」です。

二つめは、政治家の様々な基盤となっている「公共事業

そして、三つ目には「開業医に渡る医療費」だそうです。

国家予算の大きな支出先として社会福祉費が上がりますが、実はその大半が医療費であり、しかもその大きな部分が開業医に入ってしまうそうです。

社会福祉費の増加を抑えると言って年金支給の削減や生活保護費の削減などと言われますが、それは微々たるものであり大きな部分を抑えなければ仕方ないことだそうです。

 

これまでの日本の税制の主なものは「収入から税金を取る」というものでした。そのために収入を得てもほとんど使わなければならない貧困層の負担も大きくなってしまいまいた。

しかし、「資産に税をかける」という方針に転換すればその額も大きく、さらに富裕者から効果的に税金を取ることができるので最適と言うのが著者の意見です。

もしも資産あたり年1%でも取ることができれば巨額の収入が生まれるようです。さらに、個人で言えばこれを払うことで相続税の分割払いにもなるのでさほど不利にもならないようです。

 

税金の問題とはそのまま社会の問題になりそうです。ここに切り込まなければ社会の是正にはならないものなのでしょう。