爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ヒトの遺伝」中込弥男著

遺伝子の解析はますます盛んになる一方ですが、本書は20年ほど前に書かれたもので、人間の遺伝に関する様々なものを新書として分かりやすく書かれています。

著者は性染色体の遺伝解析ということを専門にされていた当時順天堂大学客員教授の中込さんです。

 

家族の遺伝というものはいろいろと話題になることがありますが、意外にきちんと理解されていることが少ないということもあるのかもしれません。

才能がなぜ兄弟で違うのか、ということを考え出すと、才能と言うものを支配する遺伝子は何かと言う問題もあり、また兄弟での遺伝の違いと言うことも関係してきます。

親の染色体が減数分裂をする際の組換えと言うものが大きく作用するのですが、この点が兄弟の違いの原因となります。

なお、ダウン症の発生は母親の年齢が上がるほど高まるということは以前から知られていました。本書執筆の当時は実は発生率が下がっていたそうです。これは、以前のような多子出産例が多い場合の末子に近い出産時の母親の高年齢化と言うことが少なくなっていたためで、その後の結婚年齢の高齢化にともなう初産年齢の上昇はまだ利いていなかったようです。その不安を著者も心配していましたが、現在の状況はどうなのでしょう。

 

もう少し大きな民族の遺伝というものを考える話題として、インカの人は血液型がすべてO型であったということがあります。アメリカ大陸に渡った人々はごく少数の集団から分かれたもののようですが、その集団がたまたますべて血液型がO型だったんでしょう。

 

遺伝の常識という項目では、「優性遺伝」「劣性遺伝」という話題も取り上げられています。これも勘違いをしている人が多いようですが、遺伝的な性質が現れる場合と隠されている場合があり、劣性遺伝を示す性質は両親からの遺伝子が重ならければ発現しないということを理解されていない場合があるようです。

 

また、成人病(今は生活習慣病と言っていますが)やガンに罹りやすい体質というものも確かに存在するのですが、これらに関連する遺伝子は多数あり簡単に考えられるものではないようです。

 

後半にはゲノムと遺伝子診断、遺伝子治療についても解説されていますが、この辺りは現在の状況は想像以上に発展してしまっているでしょう。

 

本書のような内容は現在では高校の生物教科書にもかなり取り入れられています。しかし、きちんと理解されてはいないのだろうな。