爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「裏切る政治 なぜ消費増税TPP参加は簡単に決められてしまうのか」小林興起著

政治が裏切るということを、著者は投票した有権者が賛成しないはずの政策を時の首相の一存で簡単に実行してしまうことの表現に用いています。

 

というのも、著者は小泉内閣郵政民営化を推し進めた際に自民党議員でありながら反対票を投じ、その直後の”郵政選挙”で「刺客候補」を立てられて落選したという経験を持ち、それで自民党を離れたのちに請われて民主党から立候補、民主党議員となったものの、消費税増税という民主党政府の方針に反対したという経緯をたどっています。

 

本書はそうやって消費税増税を決定したのち、民主党政権が崩壊したころに書かれており、その後の安倍政権については触れていませんが、もちろん最大の裏切り政権は安倍政権ですので著者の次の書籍を見たいものです。

 

著者はこの国の政治には「裏切りのシステム」があると断じています。現在の政治システムは小選挙区制と政党助成金の導入により政党の代表一人に圧倒的な権力が集中するようになってしまいました。したがって、政府与党の代表者である首相を操ることができれば何でもできてしまいます。そして、現在の総理を意のままに操る勢力が存在しているのです。

それは「アメリカが決めた政治」を「官僚が実施する政治」です。

 

本書執筆の直前に民主党の野田政権は消費税増税の法案を成立させました。著者はこれに民主党所属の立場でありながら反対票を投じるのですが、これは経済状況からの判断での信念によるものです。しかし、党方針に逆らう投票をした議員は党を出て行けというような議論がされるという事態になり、郵政民営化法案に反対して自民党を追い出されたかつての自身の体験を重ね合わせ、民主党政権小泉政権とまったく同じ体質を見せたことに気付くわけです。

 

郵政民営化法案に反対票を投じた著者は、その直後の「郵政選挙」で無所属で立候補したものの、自民党が同じ選挙区に小池百合子を刺客として送り込んだために落選してしまいました。無所属では比例復活ということもできず浪人してしまうわけですが、このように小選挙区制では党の公認というのが必須であり、それを決定する党中枢の権力は非常に強くなってしまっています。

さらに政党助成金の配分というものも党本部の意のままであるために、その方向からの締め付けも厳しく、党方針に逆らう行動はほとんど不可能になってしまっています。

 

自民党を離れ浪人生活をしていた著者にも、かつての競争相手の民主党からの要請があり、民主党候補として立候補し政権交代の際の選挙で当選しました。そして民主党内部からの政権観察をしてきたのですが、その最初の鳩山政権が脱アメリカ盲従ということを掲げ、そして失敗する様をみてしまいました。

それまでの、そしてその後も続くアメリカ盲従の属国のも言える状態に一石を投じようとした鳩山政権は独立国を目指すとも言える姿勢だったのですが、あまりにも準備が悪くまた政権内部にもそれに従わない勢力が多すぎ、官僚もまったくそれまでの対米従属路線のままでしたので、それらの反発が強くあっという間の退陣になってしまいました。

その後は自民党以上に対米盲従路線の菅政権、そしてさらに輪をかけた野田政権とつながり、その間に消費税増税、TPP参加決定とアメリカの意のままの路線へと変換してしまいました。

 

これまでもアメリカの命令をそのまま日本の施策とすることが続いていました。「金融ビッグバン」「聖域なき構造改革」「規制緩和」「官から民へ」「郵政民営化」「平成の開国」などの合言葉はすべてアメリカの国策のための日本への押し付け施策を甘い言葉で表現したものです。

それがあたかも日本国民のためになるような幻想を振りまきながら、その実施でアメリカに利益が流れるようにされてきました。

郵政民営化は国民のためであるかのようなことを言われましたが、その実態は郵便貯金の巨額の資金をアメリカのために使えるようにすることに尽きます。その裏に気付いた著者は民営化法案に反対したのですが主張は受け入れられませんでした。

今回のTPPも郵政民営化と同じ構造であると見ています。アメリカの国益のための方策になぜか進んで協力するのが日本の政府と言うことです。

 

著者が言うには、なぜアメリカの言いなりにならなければならないかと言うのはやはりアメリカの軍事力の庇護の下にあるからだということです。これを示しているのがかつての「年次改革要望書」「日米経済調和対話」であったということです。これは実はアメリカの日本に対する指令書であったのです。

それを日本の政策に読み替えるのが政府と官僚の役割でした。

 

しかし、このような「裏切りのシステム」も有権者の手で断ち切ることができます。そのためには有権者も多くを学ばなければなりません。そして自衛は自分たちで行うという覚悟もいるでしょう。また相手も全力を尽くして戦ってきます。しかしあきらめずに続けるということが必要でしょう。

 

その後著者は議員に当選することはできず在野で活動しているようです。著書やホームページ等の活動はチェックしていきたいと思います。