爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「世間のカラクリ」池田清彦著

生物学者ですがいろいろなところ(例えば二酸化炭素温暖化)への批判をしているために嫌われる反面、多くの人からの注目も集めている著者が、昨年にまた様々なことに対しての独断を書き綴ったものです。
まああまり文句も言いようがない主張もあるのですが、そうでもない部分も多々あります。そういったところが受ける面もあるんでしょう。

”アモク的犯罪”という言葉は知りませんでした。それを読むためにこの本を図書館で選んで借り出したようなものです。
この言葉はMITの心理学教授のスティーブン・ピンガーという人が1996年にスコットランドで起こった銃を使った大量殺人事件を解説するために作ったそうです。マレー語で”アモク”というのは面目を失った人が起こす殺人事件を指すということで、もちろんインドネシアばかりでなく世界中どこでも見られる事件を指します。
失恋などで面目を失ったためにその対象を殺して自殺するといったものがそれに当たりますが、なぜかほとんどが男性による事件であり女性のものは見られないということです。
このような自己破滅的な犯罪にはどのような法律も抑止効果を上げることは難しいようです。いくら重罪としてももともと自殺することを目的としていますので効果はありません。
このような犯罪を起こす心理的な発現機序を解明しない限りなくならないだろうというのが著者の見解です。

最近、「護憲」集会に施設の使用を拒否するという自治体が相次いでいるということです。「憲法を守る」というのが「政治的中立性を損なう」という理由だからですが、著者の批判も集中します。まあ政府の姿勢もさることながら、それに盲従する地方自治体というのも情けない限りの存在であるのは確かですが。
原発の有無、憲法改正の是非と言った重要な二者択一をするというのと、くだらない些末な二者択一というのは全く違うカテゴリーのものであるのに、それを同価値のように扱って世論を誘導しようするマスコミにも著者の批判は向いています。

環境問題について、二酸化炭素温暖化を主張するIPCCや日本の政府・マスコミについても批判を繰り広げています。自分の方に科学というものがあるという確信があるのでしょうが、相手も一応科学の名のもとに活動していますので、どこが正しいのかきちんと決めることができないのでしょうか。まあ、この辺は巨額の公費を使って研究している側がするべきものでしょうが。

がんは放置する方がましと言う説を唱えている近藤誠さんという人がいますが、著者はこの人とも親交があり主張も取り入れているようです。がん治療というものはほとんど意味がなく、手術も抗がん剤治療も体に対する悪影響が強くてやらない方が良いということです。近藤さんの主張自体を良く知りませんでしたのでその当否は分かりませんが、がんの「早期発見」といっても1cmくらいまで大きくなったガンと言うものはすでに「末期」と言わざるを得ず、そこで取ったところでもう大勢に影響はないということのようです。
なお、ガンが転移するかどうかもすでに早い時期に決まっており、そのような微小なガン患部であっても転移しやすいものであればすでにあちこちに転移しているためにその意味では手遅れになっているということです。
そういったことが成立する可能性はありそうです。近藤さんの著書を調べてみる必要はあるかもしれません。
ガンに対する免疫療法というものもありますが、どうやらガンというものは免疫を潜り抜けるような性質をもともと持っているということのようです。そうでなければ1個のガン化細胞が増えることはできないからということです。そのようなガン細胞に対していくら免疫を強化しても無駄な話です。これも本当かどうかは分かりませんが、納得できる方向の議論です。

この話のついでに、神奈川県が受動喫煙防止のために飲食店禁煙を定めた条例に対して「受動喫煙は体に悪いというインチキ理論」と言っていますが、これはどうなんでしょうね。多くの調査研究が受動喫煙によるガン発生の増加を証明していると思いますが。もしかしたらこの著者も例の「動物実験で実証されなければ証明ではない」という考え方に侵されているのでしょうか。この姿勢も著者特有のものでしょう。

まあ得るところ7、そうでないところ3といった本でしょうか。