爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「アメリカの金権政治」軽部謙介著

著者は時事通信社に勤め執筆当時はニューヨーク総局長という方ですが、いろいろとアメリカの政治についての取材をされており日本以上?に蔓延しているアメリカの金権政治についても様々な相手にインタビューをしていたようです。

アメリカの政治が金権体質となるのは、選挙に莫大な金がかかるからです。他の腐敗国家のように政治家が私腹を肥やすと言うことではないようですが(これも程度問題で、全く無いとも言えないようですが)それでもその金の調達先に対する利便供与などがあれば政治の公正を損なうことになるでしょう。
選挙で一番金がかかるのがテレビのCM費用のようです。見るに耐えないようなネガティブキャンペーンが横行しているという実態もありますが、結局はその量と出来次第で選挙結果が大きく左右されるというのがアメリカ民主主義の実態なんでしょう。それが大統領選挙ばかりでなく国会議員や州単位の選挙、もっと地域の選挙に至るまで蔓延しているようです。

そのような政治家の状況に付け込むのがロビイストと呼ばれる連中です。彼らのやり口について、著者はエイブラモフ事件というスキャンダルを紹介しています。エイブラモフというロビイストが、違反のためにカジノの業務を停止されたネイティブアメリカンの一部族に営業再開のための活動をすると持ちかけ、多額(実に400万ドル)の行動費を搾り取ります。部族側はカジノを営業できなければほとんど収入もなくなるので仕方なく払いますが、その金は結局はほとんど運動費としては使われずに闇に消えてしまいました。政治家にも一部渡っていたようです。

ロビイストは政治家との太いパイプを持ち、それをさらに献金というもので広げながら依頼者からの政治的な要請を政治家に持ちかけると言う活動を続けていますが、これが結構功を奏しているというのが悪循環になっているのでしょう。

アメリカでは企業献金は禁止されており、個人献金だけという建前ですが、実は各企業、労働組合と言ったところには「政治活動委員会」(Political Action Committee)PACと呼ばれる)が置かれ、そこに社員や組合員が半強制的に参加させられるようになっているようです。そこから献金の要請も随時行われ、断るとその会社に居づらくなるという形で「個人献金」を確保しているようです。
サブプライムローンで破綻したベアースターンズという企業にもベアースターンズPACという組織が存在し、そこからの献金はその額が多いことで有名だったそうですが、そういった活動も結局は無駄となって会社も消滅してしまったそうです。
しかし、政治家からの「請願するなら献金を」という圧力は大きく、どの組織でも断ることはできないようです。

日本もいろいろな補助金だらけになっていますが、アメリカにも「イヤマーク」というものが存在しているそうです。これは議員が紹介する地方の活動に連邦の費用を分配すると言うもので、明らかに選挙区に対する利益誘導そのものなのですが、批判する声はあっても議員がすべて擁護する側に回るので制限しようとする動きは議会ではすべて葬られるようです。
これは現職議員に限られる権限ですので、アメリカでは現職の再選の確率が高まってしまうとか。
日本ではそのような議員が直接引っ張ってくる予算というものは無いようですが、中央官僚の匙加減次第になるためにどの議員も「中央とのパイプ」ばかりを言うような選挙になっているので、ほとんど変わらないのでしょう。

まあ聞きしに勝るというか、語るに落ちるというか、ひどい状況のようです。このようなものを世界に押し付ける民主主義と言っているのがアメリカと言う国なのでしょう。