爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「熊取六人衆の脱原発」今中哲二、海老澤徹、川野眞治、小出裕章、小林圭二、瀬尾健著

”熊取六人衆”という言葉自体まったく知りませんでしたが、最近瀬尾さんの文章を再読する機会があり”瀬尾健”というお名前で調べたところそのように呼ばれる人々が居るということを知りました。
中では、小出さんは最近も原発事故に関して多くの発信をされているのでお名前だけは聞いていましたが、その人々の所属していた京都大学原子力研究所という施設についても知りませんでしたし、その中でこれまでも反原発の運動を行ってきたということも今回初めて認識できたような次第です。

そのようなわけで、今回も図書館でこのような題の本を見つけたのですが、これまでは背表紙を見てはいてもまったく手に取ろうとは思わなかったのが、初めて読む気になりました。

本書は著者欄に記した6人の方々のうち、小出さん瀬尾さんを除く4人の方が集まって2013年11月に行われた講演会を収録したもの、そして小出さんについては同年11月4日に「核戦争を防止する岡山県医師」主催の講演会での講演内容、瀬尾さんは残念ながら1994年に亡くなられているので、1986年の女川原発訴訟での証人としての証言録の中からの抜粋をまとめて1冊としたものです。

今中さん、小出さんはまだ現役ですが、他の3人の方はすでに退官されていますのでこれまでの研究を振り返るものとなっています。

今中さんは広島のお生れとの事で、ご本人は1950年生まれですので被爆はしていないのですが、母上が近い場所で被爆されたそうです。広島原爆の解析というものも詳細に語られています。

小出さんの講演は他の方の講演には都合で参加できなかったために別の場所での講演内容ですが、原子力開発の真の目的はやはり核兵器の潜在的な保有力ということです。
ただし、石油など化石燃料の枯渇については宣伝であり、日本が第2次世界大戦への道を歩まされたのもこの宣伝のせいであり、その後も”あと石油は20年、30年”という宣伝ばかりされて原子力への道を進まされた。とありますがこれはどうでしょう。
特に今60代70代以上の科学者、技術者ではよくこのような発言をされる方がいるようです。この問題について詳細に分析すればまったく間違いはないということが分かるのですが、よほど宣伝に踊らされたと言う不快感が強いのでしょう。それ以降の状況判断をストップしてしまっているようです。
石油は採掘できるかどうかというその時代の状況により「埋蔵量」というものは変化するのは当然です。いくら石油分なるものが埋もれていても使えなければどうしようもなく、そのようなものがあるからと言って何の足しにもならないのは当然です。それを戦争の原因にできるものではないのですが、日本が石油を求めて戦争に進んだのは歴史の事実です。
その後の石油枯渇説というものも、それが回避されたのは多くの石油探査の努力で莫大な油田が開発されてきたからに他なりません。その成果で枯渇時期が先に延びているだけです。その発見油田の埋蔵量が急激に落ちているから現代の石油供給不安が緊迫化しているわけで、「騙された」とばかり言っているのはちょっと問題でしょう。

最後の瀬尾さんの裁判での証言記録は、ちょうどチェルノブイリ事故が起きて直後の時期であり、ソ連の情報秘匿のかげでなかなか分かりにくかったものの緊迫の情勢も語られています。もしも事故が起きればという想定が今回の事故状況と一致していることが多いのが分かります。

おりから、川内に続き高浜原発も再稼動へ動いています。次に原発事故が起これば日本は繁栄を取り戻すどころの話ではないでしょう。