爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「感染症とたたかう インフルエンザとSARS」岡田晴恵、田代眞人著

SARSが流行し大ニュースとなったのはもはや10年以上前になる2003年ですが、その半年後に当時国立感染症研究所のウイルス第三部部長の田代さんと、第三部研究員という岡田さんがSARSとインフルエンザなどのウイルス感染症について解説をしているものです。
岡田さんはその後新型インフルエンザの危険性の啓蒙のためか、テレビなどにも出ているとかで、かなり批判もされているようですが、本書で見る限りはウイルス感染症については非常に確かな見方をされているようですし、それほど批判されるような感じもしないのですが、よほどテレビではおかしな発言でもしたのでしょうか。

インフルエンザは毎年流行を繰り返していますが、これは変異の頻度が高く前年流行のものとは少しずつ異なっていることにより罹患した人が持つ免疫が完全には効かない為だとか。したがってワクチンを作るための元株も何を使うかと言うのは難しい選択になるようです。
インフルエンザは乳幼児や高齢者には症状が重くなる危険性があり、死者も珍しくはありません。さらにインフルエンザ脳症という症状になる場合もあり、これは1歳の乳児がもっともかかりやすく死亡や重度障害が残るなど危険性の高いものとなっています。

さらに、新型インフルエンザの大流行が危惧されていますが、これまでも大きな流行が何度も起き、そのたびに多数の死者を出すようなことになってきました。
1918年のスペイン風邪では5億人が罹患し4000万人が死亡したそうです。このときは死亡者が通常の乳幼児と高齢者と言うパターンとは異なり20−30代の青年が多かったそうですが、その原因はまだ分かっていないようです。
最近の鳥インフルエンザの変異による人の罹患では強毒型のウイルスも見られ、その場合は症状が身体の各部に及ぶなど通常のインフルエンザの症状とはかなり異なることもあるようです。

新型インフルエンザが大流行するとそれがスペインかぜ並みのものでなくても世界各国に大きな打撃を与えることになります。若年者が罹患し死亡者も出るとなると政府機関や軍隊にも影響が出ることになり機能を失うことにもなりかねず、国際的な対策会議も進められているようです。
対策としてはまず監視体制を整備しどこで流行が始まるかということを知ると言うことが重要です。しかし日本ではそれすらがたがたの状態で危険極まりないものだったようです。

しかし、新型インフルエンザの流行が感知されてもその対応策としてはそれほど効果的なものはなく、できるだけ速くそのウイルスに対応するワクチンを製造し、さらに抗ウイルス剤を準備し感染者に投与するくらいしかできず、それが間に合うかどうかは難しいものかもしれません。
ワクチン製造は製薬会社の製造能力という問題もあり、フル稼働でも何ヶ月もかかるという問題点があるようです。日本の場合、ワクチンに対する不信感があるために接種者も少なくそのために製造能力も小さいままになっているため、緊急に製造したくてもその能力が追いつかないという問題点があるそうです。
抗ウイルス剤の備蓄もどの程度必要でそれにどのくらいの費用がかかるか、またそれをどこが負担するかという問題もあります。また、国内で備蓄しておいても流行時に近隣国から援助要請があった場合に出せるのかどうかと言う問題もありそうです。

SARSは2002年に出現し1年間に8000人あまりの感染者を出しそのうち800人あまりが亡くなるという流行を起こしましたが、その後はあまり話題にもならないのは結構なことです。
コロナウイルスという少し変わったウイルスによる感染ですが、病院内ですれ違ったとか、飛行機で乗り合わせたといった少しの接触でも感染する一方、ホテルの部屋が別の階だったので大丈夫とか、不可解な点もあるようです。
なお、発病者と香港のホテルで1階違いに日本の団体旅行者が泊まっており、もし1階ずれていれば日本にも侵入するところだったということで、幸運だったのでしょう。
SARSの流行が始まったすぐに、当時中国に多数の留学生を出していた愛知大学ではすぐに帰国させるという決断をして費用も大学持ちでチャーター機を飛ばせ、さらに帰国した学生を一定期間宿泊施設に留めて発病の有無を確認してから帰宅させたそうです。感染拡大防止の方策としては参考になりそうです。

そのほかに、成人の麻疹、風疹についても記されていますが、妊娠初期での風疹罹患が胎児の病気を引き起こすと言う話は有名になっているものの、これが明らかになったのは比較的最近で1940年が初めてだったそうです。オーストラリアで新生児の白内障が異常に多いことに気付いた小児病院の眼科医がその原因を調べていき、ようやく母親が妊娠初期に風疹にかかったという共通点を見出して、それまでは軽い病気と言う認識だった風疹の評価が一変したということです。
なお、そのように妊婦が風疹にかかったとしても異常率は20%ほどで残りの80%は正常なのですが、風疹感染が分かった時点で人工妊娠中絶をしてしまう例が多く、その点も問題になるようです。とはいえ、とにかく妊娠する前にワクチン接種で抗体を作っておけば良い話なのでそれを徹底することで失われる命も救われるということです。

ウイルス感染は抗生物質のような強力な薬剤がなく、なかなか対処しにくいうえに感染力が非常に強いもので社会にとって危険なものですが、適切な対策で被害を食い止めたいものです。