爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ゼンリン住宅地図と最新ネット地図の秘密」内田宗治著

住宅地図というと一軒一軒の名前まで詳しく載っている詳細な地図で業務用などによく使われているものですが、最近はネットでのグーグルマップやマップファンなど無料の地図も良く使われています。
これらの両方ともにゼンリンという名前だけは知っている会社が関わっているそうです。これを旅行ガイドなどのライターの内田さんが取材しまとめて本にされています。

本書はじめにあるように、これまでも地図の話という本は数多く書かれていますが、だいたいそれらは国土地理院の地図が主な対象となっていました。しかし、現在大いに使われている地図というものは実はゼンリンの地図であるということです。
住宅地図はその詳しさに驚きますが、ゼンリンでは1000人にも上る調査スタッフが毎日町を歩いて調べているそうです。地図を作る際は航空写真を参考にするのではないかと考え勝ちですが、とんでもない話ですべて調査員が一軒ずつ歩いて確認して変更点をチェックしていくという活動が欠かせないそうです。
とくに都会では転居や商売換えなど変更点がめまぐるしく、1/1000の詳細地図に色ペンで書き込みをしていき、それを入力部門に送って訂正していくそうです。調査員は歩き詰めの仕事ですのでかなりの厳しさの労働になるようですが、毎日雨の日も歩き回るとか。食事をする場所とトイレには困るらしく、そこは地図を見ながら決めているそうです。

住宅地図にゼンリンが取り組んだのは昭和24年からで、大分の別府で創業者の大迫正富さんが初めて作ったそうですが、別府は温泉地でいろいろと入り組んでおり、詳細で商店などの店名まで入った地図というものは非常に好評を博したそうです。その後、税務署などの官庁でもその必要性が高いと聞かされて創業者は事業化を進めることを決め、徐々に全国に広げていったということです。
当時はまだ各地の小出版社がそういった地図を出していたようですが、ゼンリンははるかに信頼性が高いものであり他を駆逐していきました。それでも東京に乗り込んだのはかなり遅れて昭和47年からだったそうです。
早い時期から地図データのコンピュータ化にも取り組みその蓄積も大変な規模になっていました。

しかし、デジタルデータの地図が出回っても東日本大震災のときには被災地の各所から「紙の地図を送ってくれ」という要望が殺到しゼンリンも全力対応で供給したということです。被災地での地図確認にはいくらネット地図があってもまったく役には立たず紙の地図を持たせて出さないと仕事にならなかったとか。

とはいっても紙の地図というものの売れ行きは落ちる一方ですが、ゼンリンのデータは早い時期からカーナビへの応用も進んでおり、さらにネット地図の元のデータも日本の部分はゼンリンから供給されているそうです。これらにも現地での取材という手間がかかっており、カーナビ用のデータでは実際に車を走らせて確認しているそうです。これも刻一刻と変化して行きますので頻度高く調査が必要のようです。
今後は自動車の自動運転といった方向性も出てきていますが、これにも地図データというのは欠かせないもののようで、効率的な進路の予測のためには精度高い地図データが不可欠ということです。

現代の最先端の技術とも密接に結びつく地図データですが、それを歩いて見て回っている調査員の人たちは表札を確認する際に在宅か留守かに関わらず必ず挨拶をしてから見るそうです。きちんとした仕事ぶりがそこからも伺えます。