爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「サラリーマン誕生物語」原克著

サラリーマンと呼ばれるホワイトカラーの事務職員は日本では大正から昭和初期にかけて発生してきたようです。この初期のサラリーマンの生態を、早稲田大学教授の原克(はら・かつみ)さんが物語仕立てで表しています。

時は昭和11年、長野の田舎から出てきて東京の実業学校(今の専門学校のようなもの)を出た阿部礼二氏は親のコネで御茶ノ水の貿易会社に就職し、サラリーマン生活を始めます。主人公の阿部礼二とは「アベレージ」から取ったものです。
下宿をしている叔父の家から満員電車で通勤し、既製服とはいえ背広を着て様々な小物にも気を使い、事務所についたらタイムカードを押して受付のオールドミスにいやみを言われながら事務を始めるという、今でもたくさんありそうな話ですがすでに80年前には始まっていたようです。

細かいところはさすがに大学の先生の調査研究によるものだけあって、行き届いたデータが揃っているようで、タイムレコーダのメーカーから様式、また様々な最新の舶来の事務機器など、かつてその最後を目にしたような覚えのあるものが並んでいます。

その頃にはすでにファクシミリの原型が出現していたとか。その名もファク・シミリと中に点が入っており、ラテン語から来たものだったそうです。写真の電送というものも始まっており、新聞社各社が競争で導入していたとか。
また、文書のマイクロフィルム化と言うものもすでに始まっており、主人公はそれを実施するよう命令を受け会社の地下室の文書保管庫にこもります。これも以前の会社にはまだ残っており、目にした覚えがあります。

さすがに当時しかなかった風習では、「給仕」という人がおり、お茶を入れたり昼食の手配をしたりということはその人たちがしてくれたということです。
主人公は給仕の手配は断り、12時になると外に出かけて蕎麦を食べに行っています。御茶ノ水ではちょっと離れていますが、その頃では三越などのデパートの食堂が近辺のサラリーマンの昼食の場として盛んに利用されていたようです。

御茶ノ水の駅は当時としてはモダンな作りの建物であったそうです。ここは私も学生時代通学で利用していたので懐かしいところですが、その当時の建物とは違うのでしょう。阿部礼二氏の楽しみは毎朝の通勤の途中に御茶ノ水の駅の伝言板を見てから会社に行くことだそうです。昔の伝言板というのは、確かに面白かった。いつごろ無くなってしまったのでしょうか。

著者のあとがきには、「OL誕生物語」というのも面白そうだとあります。これにもたくさんの思い出が詰まっているのでしょう。