爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「”原発”革命」古川和男著

原子力発電に使われる核反応には核分裂核融合があり、核分裂反応はウラン235が中性子を発して連続的に反応するものだという知識でいましたが、それ以外にも核反応というものはあり、それを長く研究してこられた著者が今の大勢とはまったく別の原子力発電の方式があるということをまとめて記したものです。
しかし、どうやら著者の古川さんは最近亡くなられたようです。結局原子力発電の大勢を変えるまでには至らなかったのは残念だったでしょう。

とはいえ、著者の力説するトリウムによる溶融塩核エネルギーシステムが本当に有効なものかどうか、それを判断するだけの材料がまったくありませんので、判定はできませんが、一つの考え方として読んでみました。
ウラン235の分裂による原子力発電では数々の不可避とも言える欠点があり、これが福島第1発電所の事故でも露呈して大きな影響を及ぼしていますが、これも著者の言うウラン分裂型の発電の欠点であり、必ずしも原発すべての欠点とはならないということです。
それは、トリウムを用い、さらにフッ化物の溶融塩を使った液状の反応体を用いることで、まったく異なる原発の形態がありうるということです。

現在のウランによる原発の問題点としては、1.核燃料体が固体であり密封されているために放射線照射による変形、変質を受けその修復のために燃料棒を取り出し処理をしなければならず、また核分裂生成物としてガスも発生するがこれが密封管内部で高圧となってしまう。2.燃料棒の交換などの作業量が膨大。3.運転性能が柔軟ではなく出力を変動させることが困難。4.装置が大型となり、小型化ができない。5.冷却材・減速材に水を使っているので爆発の危険が大きい水素を発生する。6.運転中にプルトニウムを生成してしまい、核兵器原料への転用が危惧される。などです。
特にすべての制御が困難になった場合には重大事故となるということを指摘しており、原子力技術研究者でも原発事故の発生は自明のことであったことがわかりますが、著者はさらにどのような装置故障が起こっても重大事故が起こらないように設計すべきだと述べています。

そこで提示されるのが著者らが長く研究してきた「フッ化リチウムとフッ化ベリリウムの混合物を高温で溶融させた溶融塩に核物質を溶解させた反応」ということです。なかなか想像もしがたいような反応炉なのですが、これが最適という主張です。
これはアメリカのオークリッジ研究所というところで実験されており、すでに1968年には良好な運転試験結果が得られたということです。

核分裂の親物質として、トリウムを使うという点について、トリウムがそのもの自体には核分裂性がないことが挙げられています。トリウムは原子番号90でウランより二つ小さいもので原子量は232ですが、これに中性子が一つ加わると簡単にウラン233になり核分裂を起こします。
トリウムは地球上の存在も広範囲にわたっており採取も容易であるということで、供給も不安がないということです。さらに、ウランによる発電の際には中性子ウラン238にも吸収されてプルトニウムを作り出してしまいますが、トリウムの場合はその反応が起こらないのでプルトニウム副生も起こらないということです。
ただし、トリウムの場合はウラン233になった後、少量のウラン232を作り出しそれが最終的にタリウム208になるのですが、これが非常に強力なガンマ線を発するということです。これは危険性が強いということで問題なのですが、著者によればこれがあるためにテロ集団などに盗まれる怖れも少なくなり(盗んだテロ集団自身がすぐに被害を受ける)軍事転用もしにくいということになるようです。
この辺の論理はいささか強引にも感じられます。

このように利点の多い(?)溶融塩トリウム利用各技術ですが、これまであまり注目されなかったのは、トリウムの核燃料化においてはウラン232からタリウムになる反応のガンマ線が問題となり、特に固体燃料としては困難だったということ、そして溶融塩以外の液体反応炉はすべて失敗したために溶融塩技術も無理だろうという先入観が強くなってしまったということ、さらにプルトニウムができないので軍事利用の旨味がないので興味を惹かれない人も多かったということ、さらに装置が小型なので機械メーカーの興味ももたれなかったということが理由だったようです。

先にも書いたように、この本に述べられていることの妥当性はまったく分かりませんが、原子力利用と言っても現在の方式が唯一のものではなく様々なものがあるということは分かりました。
ただし、著者の思考法というのはあちこちにちょっとどうかと思う点も散見されます。「地下資源は無くなると言われるが今までに無くなった例はない」という趣旨の記述もありますが、これはあまりにも科学的ではないといえるでしょう。
現在の地熱の大部分は地球の核にあるウランとトリウムの崩壊熱によるとありますが、これも本当なんでしょうか。いろいろとさらに勉強する必要を感じさせてくれます。