爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「地図もウソをつく」竹内正浩著

著者は現在はフリーライターということですが、大学卒業後JCBに入社し旅行誌の編集を長くやってきたということで、各地への旅行は頻繁だったのでしょうが、それにも増して地図が大好きだった様子が見て取れます。

地図は実際の地形の状態などを正確に記していると考えがちですが、そのようなことは無く不正確な部分や恣意的に変えられた部分もあるということは明らかです。
そういった例も本書には挙げられており、戦争が近づいていた時に作られた地図にはわざとニセ情報を入れたものもあったようです。日本では昭和12年の軍機保護法改正のあとには地図の改変も大きく進み、東京でも皇室関係の場所はすべて公園のように記載されまるでガーデンシティのようだったということです。
韓国では現在も大統領府である青瓦台は地図に載せられていないようです。実際に北朝鮮の工作隊が侵入したこともあったので、防衛上の都合が主な要因です。

また、測量技術が未発達であったころの地図は適当なカーブで穴埋めしたこともあったそうで、北海道などでは明治大正期の地図はあまり信用できないとか。恵庭岳の形も明治期のものではきれいな円錐に近い形に書かれていましたが、実際はまったく違った形状であったということです。

昭和の初期には鉄道路線が日々伸張していく状況で、地図もどんどんと改訂されていく必要があり、頻繁に「鉄道補入」(鉄補)と言われた改訂版が出されていたということですが、それがきちんと測量したものでなくかなりいい加減に書き入れただけのものもあり、大正15年鉄補といわれる20万分の1の横須賀の地図では、東海道線の湯河原熱海間と、房総線の岩井富浦間に実際とはまったく違ったところに路線が描かれているということで、地図マニアの間ではこの時期の鉄補地図は間違い探しの絶好の対象だそうです。

しかし、日本だけでなく世界的にも地図の出版というものは曲がり角に来ており、紙で出版される地図の売れ行きは激減しています。グーグルマップのようなネット上の地図が普及したためですが、これらの地図は各国政府(特に中国)の圧力に弱く、政治的な主張を安易に取り入れるといった面も目立つようで、内容の正確さでは問題がありそうです。特に領土問題を抱える部分では政府がきちんとした主張を込めた地図というものを責任を持って出版する体制は失ってはいけないものでしょう。
さらに、ネット上の地図では改変の履歴もきちんと管理されないままうやむやにされることもあり、そこも相当大きな問題のようです。

地図をめぐる状況にも最近の政治経済上の激変が大きく影を落としているようです。