爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「イスラム過激原理主義」藤原和彦著

イスラム教徒という人々のほとんどは平和を愛するということは言われていますが、一部の過激派のためにキリスト教徒を中心とする欧米諸国からはテロ集団のように見られがちです。
この本は、新聞社のエジプト支局長などを長く務められ、イスラム教の情報には非常に通じておられた藤原さんがルクソールで起きた海外観光客の大量虐殺事件などの際に日本のマスコミなどから受けたインタビューの折に、あまりにも知識が欠けていることに衝撃を受け解説したものですが、出版間際にアメリカで同時多発テロが起き最後に一部付け加えられています。
その後ほどなくしてお亡くなりになったようですが、現在の「イスラム国」台頭についても解説を頂きたかったところです。

現在につながるイスラム過激派の台頭は、ソ連アフガニスタン侵略を受けてアラブなどからのアフガンへの義勇兵としての参戦から始まったようです。これを欧米各国ではまったく見落としており、その後の対応も誤ってしまったと言うことです。
ソ連は結局アフガンから敗退しますが、その後義勇兵たちは勝者として帰国することはできず、母国の政府は危険分子として監視するようになってしまいました。このような「アラブ・アフガン」と呼ばれる人々がその後の各国でのイスラム原理主義者のグループ形成と、武力闘争の主役となって行きます。
彼らはほとんどが各国の貧しい階層の出身者で、経済格差の拡大は政府の政策によるものというよりは、イスラム教から外れたためと考えてシャリーアイスラム教に基づく政治というものをすべきという主張をしていきます。その意味でイスラム原理主義と言えるものですが、その後の闘争の過程でテロリズムに走るようになっていきます。
始めは政府関係者への攻撃程度であったものが、エジプトでは政府の主導する観光客誘致に打撃を与えようとして観光客に対するテロも起こすようになります。

それが1997年のルクソールにおける観光客襲撃事件につながりました。日本人客も含め58人が殺されましたが、この事件が逆にほとんどのイスラム教徒が過激派に対する支持を停止するきっかけともなり既存の過激派集団は急速に衰えだしたそうです。

しかし、その一方、ビンラーディンの主導するカイーダはその残党も吸収しながら拡大し、結局同時多発テロにつながりました。
イスラム諸国では、過激派集団に対する取締りというものも大きな弾圧につながり、それがますます復讐心を煽るということにもつながってしまいます。まだまだこういった連鎖は終わらないのかもしれません。