爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「家族の勝手でしょ! 写真274枚で見る食卓の喜劇」岩村暢子著

普通の家庭の食卓の調査という事業をすでに15年にわたり実施されている「食DRIVE」というプロジェクトを実施し、現在の家庭がどのようになっているか(崩壊しているか)をこれまでにも何冊もの本にして出版されている岩村さんですが、養老孟司さんとの対談の本の書評は書きました。
もう1冊、「普通の家庭が一番こわい」という本も読んだ覚えがあるのですが、書評が残っていません。どうしたことやら、勘違いでしょうか。

食DRIVEの事業については前にも書いたかもしれませんが、1998年から開始しこの本の書かれた2010年までは継続して実施されているようです。
首都圏に在住の1960年以降に生まれた子供を持つ主婦の家庭を選び、次の3ステップで勧められました。1、食事つくりや食卓に関する意識を質問紙法で細かく記述してもらう。2.決められた1週間の1日3食について、毎回食卓に載ったものすべてを日記と写真で細かく記録してもらう。そして写真は指定のレンズつきフィルムによる撮影に限る(ここがポイント!)3.第1ステップの質問票の回答と、第2ステップの実態記録を比較し、その矛盾点や疑問点を直接インタビューして個別面接法で聞き出す。
これを120家族について実施してきました。2002年までの結果を「変わる家族変わる食卓」という本にして出版したので、最近の結果をこの本にまとめたということです。

その実態は聞きしに勝るというすごさで、信じられないほどです。自分自身はもうすぐ60歳になり、妻も同年代のしかも田舎育ちのため、昔風の食卓と最近入ってきた各国料理が混ざったような食生活ではあるものの、十分に手をかけた食卓で来ていましたので、最近はこうなんだという噂だけは聞いていましたが「ウソだろう」と思っていました。しかしどうやら本当だったようです。

各章の表題を見るだけでもそのすごさが伝わってきます。「健康志向とその正体」「昔の常識、今の非常識」「誰か、と明日、に期待する子育て」「子供中心というネグレクト」「”私”を大切にする主婦たち」「家族一緒はフレックスで」
出てくる主婦はだいたい30代から40少し越える程度で、子供も乳幼児から中学生くらいまでのようです。なお、主婦も専業主婦と共働きの場合がありますが、この調査ではすでにその差はまったく感じられないそうです。つまり、専業主婦だから家事をしっかりやっているなどということは、もはや全く見られないようです。

子供が便秘をしているという例が非常に多くなっているそうですが、食事の中でほとんど野菜を取っていない家庭が多いようです。その理由としては野菜料理は面倒で手間がかかり高いからということだそうです。また作っても子供が食べないからといってすぐに止めてしまう(その口実にしている)家庭も多いようです。
魚料理も食卓に上がる例自体が激減しているのですが、上がったとしてもかつての常識のように一人一匹ないしは一切れずつあるわけではなく、1匹だけが食卓に出されてそれを皆で分けて食べるとか。また食器もほとんど使わないようになってきていて、惣菜を買ってくればそのパックのまま出され、しかも取り皿も使わず、さらに鍋やフライパンのまま食卓に載せるということが普通に行われているそうです。
幼稚園の子供の弁当というと「キャラ弁」などという装飾過剰のものが評判でしたが、実際はそのような手間をかける主婦はほとんど居らず、冷凍食品を詰めただけが普通だそうです。しかも今はどこの幼稚園でも「全部完食させて自信をつけさせるために、子供の好きなものだけ少量入れろ」というおかしな指導が横行しているそうで、それを良いことに野菜などは入れずに冷食を何品か入れるだけだそうです。
子供の好き嫌いに対しても非常に「寛容に」なってしまっており、厳しく言って嫌いなものでも出すということはなくなってしまっており、好きなものだけを繰り返すようになってしまっています。これももはや子供のためということを忘れて「厳しく言っても聞かないから自分のストレスが高まるのが嫌」という主婦自信の気持ちから出るもののようで、子供の成長や躾というものはまったく認識していないようです。
これは「子供中心」と言いながら実は「ネグレクト」しているのと同じです。母親自身の気分だけが大事で子供の身体や将来などにはまったく意識が向いていないということです。

最近の主婦はなにをしてもすぐ「疲れる」そうです。そのため「食事の支度をする気にもなれないから外食・中食」ということになり、少し前までよく見られたように平日はともかく休日だけは豪華に作って食べるという風景はまったく見られず、かえって休日の方が外食や買って済ませることが増えたとか。それに夫や子供もまったく異議を言わないのがほとんどのようで、異議のある夫の場合は自分で作るそうですが、その方がよほど手が込んでバランスの良いものを作るとか。

その割に主婦のみで平日のランチに豪華なものを食べたりすることも多く、また連日酒を飲んでつまみだけで済ませる例も増えているそうです。

この人達の親というと私よりは少し上の団塊の世代でしょうか。辛うじてその親の世代からの伝承もあった人もいれば、戦争で自信をなくした祖母世代からほとんど習わなかった人もいるかもしれません。そこで2段階の継承の失敗が起こり、最後の最大の継承不能事態が今起こっているんでしょうね。
そんなわけで、食卓の光景を見れば食事の状況が最悪となっているばかりでなく、家族と言うもの自体が崩れているのがよくわかるという、非常に怖ろしい本でした。