爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「災害列島日本の地盤を探る」前野昌弘著

著者の前野さんは専門の地質学者ではなく面白い経歴の持ち主のようで、工学博士ではあっても材料工学が専門で化学メーカーに勤務し研究所長まで勤められたそうです。
しかし、新潟地震阪神淡路震災を経験し、さらに新潟で土砂崩れにも遭遇したということで、地盤に関しての興味がわきいろいろと調べだしたそうです。書かれている内容はまったく専門家に遜色はなく、さらにこういった人だからこそ分かりやすい文章で書かれているのだろうと思います。

本書は2009年の出版ですので東日本大震災はまだ起こっていない当時のことですが、内容はそれを否定するようなものはなく現在でも矛盾無く読むことができます。ただ、一点のみ津波の対策として大規模な防潮堤が作られているということは、淡々と事実のみが書かれています。それが何の役にも立たなかったばかりでなく、かえってその存在を過信したために避難が遅れたというのは、今だからこその感想でしょう。

地盤とは何かという基礎知識から本書は始まっています。基盤としての岩盤の上に堆積層が積もったわけですが、気温の上下により海水面も大きく影響を受けており、海水面が下がった時に堆積した地層は上がった時には海の深いところになるようです。
現在は縄文海進と言われたころよりは下がっています。それ以降に堆積した地層が日本では平野部の大半を占めています。したがって、日本の平野の地層はせいぜい5000年程度の歴史しかなく、まだ固まっていない軟弱な地層になっています。そのため大きな建築物を作る場合は深いところまで基礎工事をするのですが、その地層もそれほど硬いわけではないようです。

平野部にはさらに大量の地下水があり、それを汲み上げることで地盤沈下が起こることになります。ただし、地盤それ自体も徐々に締まってくるという影響もあり地下水汲み上げを止めても少しずつ下がっていくようです。

先日の大規模土砂災害に関連したニュースもありましたが、本書にも「地名と災害」について触れてあります。地すべりの起こりやすい地形の名称が地名になった例というのが各所にあり、「高田」や「茶臼」という地名は地すべりと関係がありそうです。ほかにも安芸、阿波、木津、黒田等、災害から名づけられた地名は数多いそうですが、その由来というのが忘れられてしまっているようです。

地盤をとってみても日本列島というところは災害の巣とも言えるようなものだと再認識させられました。