爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「”没落先進国”キューバを日本が手本にしたいわけ」吉田太郎著

キューバソ連が破綻するまでは社会主義国中でアメリカの喉元に突きつけられた刃物のような存在であったためにソ連から多くの援助を得ていましたが、ソ連崩壊後はそれらがまったく途絶え一気に経済危機に向かいました。
それをなんとか克服するための努力をしてきたということで、その手法に注目が集まっていますが、それらの点について数多くの著作を出版している吉田さんが日本への参考となるべき事例を解説されているものです。

ソ連から見たキューバとアメリカから見た日本はその位置関係が非常に類似していました。その役割もそれぞれの陣営で同様のものだったのかも知れません。日本人はそのことについてあまり深く考えようとせず、実態を直視しようとはしませんが、日本はアメリカの占領政策のもとに置かれていることは明らかであり、ソ連崩壊後はさらに内政干渉を強めているというのが著者の見方です。

ソ連時代のキューバは膨大な量の石油の供与をソ連から受けていました。ソ連崩壊によりそれが全く無くなってしまい、経済混乱のために石油を購入することもできなくなり、石油に依存してきたそれまでのやり方はまったく成り立たなくなってしまいました。キューバの最近の話題として、有機農業で自立に向かっているということがありますが、それも化学肥料や農薬を購入することもできなくなったためのやむを得ない事情のためだったということです。
著者の指摘するように、これは実は今後の世界的な大問題である「ピーク・オイル後の石油供給」という問題を先取りしたような対応であり、今後の世界各国が直面する事態への大きな参考となるべき対応だということです。
「持続可能社会」という言葉はよく聞かれますが、著者の意見では石油を使いながらの「持続可能」ということはあり得ず、したがって真の意味での「持続可能社会」に一番近いのはキューバだけであるということです。

ただし、それでキューバすべてがすばらしい社会と言えるかというとまったくそうではなく、ぎりぎりの生活であるために若年層には不満も多くアメリカなどへの亡命希望者もあとを立たず、また政治体制はいまだに社会主義であるために(現在では世界唯一?)非効率性というのも昔どおりで上手く行っていない面も多いようです。

今よく言われていることは、キューバの農業が「都市農業」であり「有機農業」であるということも、その言葉の使い方が日本などとはかなり異なるために誤解を招いている点も多いようで、都市農業といっても日本でイメージするような都会の中に農地があるということではなく、地方都市や田舎町でも都市農業と称しているとか。また、有機農業も国際的な意味で化学肥料や農薬を避け環境を保護するという意味とは異なり、それらの購入ができなかったためのやむを得ぬ選択という形のもののようです。
なお、欧米や日本でも勘違いの多い、有機農業は安全という方面の話は当然ながらキューバではまったく取り上げられておらず、その意味でも正確な認識をされているのかも知れません。

本書中で取り上げられている話では、最近数多く来襲するハリケーンで、建物の被害は多く出るものの人的被害はほとんど出さずに済んでいることです。こういった天災であってもそれが人的被害に結びつくかどうかは社会の格差に大きく影響を受けるようで、アメリカでニューオリンズに大きな被害を出したハリケーンカトリーナでは被害者はほとんどが貧困者などの社会弱者であり、キューバは皆が貧しいものの格差はまだ少ない(それでも増えている)ために避難も全体で進むために死者が出にくいとか。

社会の目指すべき姿ということで、本書中に引用されているのはユニークな思想家、関曠野氏です。「資本主義をどう超えるか」という著作の中で、「経済的にはこの社会は利子なき市場経済となり、利潤は市場を支配する力を示すものではなく、個人や企業のサービスに対する社会の評価を現すものになり、謝礼や表彰のようなものに近づく。(中略)経済は共同体の文化が表現されるための手段の一つにすぎなくなるだろう」と述べているそうです。
キューバに学ぶより、どうやら関さんの著作を読んでみた方が参考になりそうです。