爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集 時間はだれも待ってくれない」高野史緒編

1980年に本書の出版元と同じ東京創元社から東欧SF傑作集という本が出版されました。これは前年に出版されたソビエトSF傑作集の姉妹編として出されたものだそうです。それから30年を経て、ソビエトなるものも消滅し、東欧というものもあやふやになったとはいえ、いまだに何か独特の地域として見られる「東欧」の現在のSF(現地では”ファンタスチカ”と呼ぶ方が好まれるとか)を紹介してみようと言う企画でまとめられました。
編者の方針として、ソ連崩壊後の21世紀になって発表されたものを必ず原語からの日本語への直接訳で紹介したいと言うことです。30年前の本ではそういった厳密なものはなく、ロシア語や英語からの2次翻訳だったようですので、中には他のジャンルも含めて初の日本語訳となる言語もあったようです。

取り上げられた範囲は旧東欧圏に加えてオーストリア、ジャンルはロボットや宇宙と言ったSFらしいものもありますが、幻想小説やファンタジーといったものも含まれています。

オーストリアのヘルムート・モンマースという作家の作はハーベムス・パーパム(新教皇万歳)というもので、宇宙・ロボット物のSFらしい作品ですが、表題にもあげられているポーランドのミハウ・ストゥドニャレクという作家の「時間は誰も待ってくれない」という作は非常に幻想的なもので、霧に囲まれるような感じになる作品です。

なお、当然のことながら全作品が原語からの直接日本語訳ということですので、すべて訳者は異なります。そういった理由からか、若干日本語として読みにくいものもあったのは仕方の無いことかも知れません。

表題作、時間はだれも待ってくれないという作品のアイディアで昔から考えていたことが思い起こされました。
それは「時間旅行」は原理的に不可能であっても、「覗く」だけならできないかということです。これができれば歴史上の疑問点はすべて解決できるのですが。