爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「日本古代の国家形成」水野佑著

この本はかなり久し振りの再読ということになります。発行年を見るとおそらく40年以上前の私の高校生時代に購入したのではないかと思いますが、その後はあまり読み返した覚えがありません。

著者の当時早稲田大学教授の水野氏は戦後もかなり早い時期に戦前からの万世一系の天皇制を否定した王朝交代説を発表しました。本書はその内容について、ある程度時間を置いた昭和40年代に新書としてまとめて出版したものです。本書にも見られるようにその手法は古事記日本書紀などの記述を詳細に調べ矛盾点を抽出すると言うもので、それ以上の結果を導き出すことはできず、その後の史学界からも多くの批判を受けているようですが、とにかく批判どころか触れることもできなかった万世一系説を初めて真っ向から否定したという業績は確かなものだったと言えるでしょう。

万世一系とは今では史実と考える研究者は誰も居ないでしょうが、戦前にはそれが正当な歴史と考えられ、教育されてきました。神武天皇に始まり現代まで続く天皇家であるというものです。
しかし、その正当な歴史書と言われていた記紀も中味を見るだけで到底成り立たない矛盾点が頻出すると言うことで、それを見直していったら三王朝の交替があったというのが、水野教授の王朝交代説でした。

まず、神武天皇以下の多くの天皇は明らかに後世の作で、最初の天皇崇神天皇でありそれは大和に起こった崇神王朝であるということです。その最後の天皇仲哀天皇ですが、九州の狗奴国を攻めかえって反撃され命を落としました。
その余勢をかって難波まで進撃しそこを治めたのが仁徳天皇で、ここからの王朝を仁徳王朝と呼びます。しかし、王朝内での勢力争いが激しく後継者を殺しあうと言う闘争の結果自滅してしまいます。
そしてその後越前から入って王朝を立てたのが継体天皇であり、これが現代まで続く天皇家であるというのが三王朝交代説です。

こういった本を読んだ時期と言うのが、まだ学校で日本史を習っていた高校時代であるというのが我ながら面白いものですが、「何でも知りたい少年時代」だったのかなと思います。とはいっても、今でも変わらず「何でも知りたい老年時代」なんですが。