爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「タンパク質の一生 生命活動の舞台裏」永田和宏著

京都大学再生医科学研究所教授の永田さんが、タンパク質に関してその合成から輸送、分解に至る一生を解説するという形で生命現象を易しく一般向けに解説しているものです。
京大のその研究所といえば、山中伸哉教授の所属研究所ですが、実際に永田教授の研究室の隣だそうです。

タンパク質というと食べる方ばかりが気になるかもしれませんが、生命現象の中心となるものであり、これを解説していくと生命の大きな部分を理解できるかもしれません。そういった意味では本書は理系を目指す高校生などには最適なものと言えます。

タンパク質の誕生というところは、DNAからの転写というところから始まります。この辺は分子生物学研究のはじめに詳しく調べられたところでよく知られていることではないかと思います。
しかし、その後の成長というところでは合成されたタンパク質の基が間違いなく折りたたまれ立体構造をしっかりと取っていくという段階に入ります。このために「分子シャペロン」と呼ばれる一群のタンパク質が「介添え役」として働きます。アミノ酸から合成されたポリペプチドを折りたたみ(フォールディングといいます)三次元構造を取らせることで間違いなく機能させるという役割を果たします。しかし、その働きが間違うことで病気も引き起こすことがあるようです。
完成したタンパク質をその働く場所へ届ける輸送というのも重要な仕組みになっています。
さらに、役割を終えたタンパク質を分解するということも重要であり、それも単にアミノ酸まで分解しアンモニアにしてしまうということではなく、アミノ酸を再利用して違うタンパク質を作り出すということが行われているそうです。

タンパク質のフォールディングという作業には非常に多くの「不良品」ができてしまうようで、まともにできたものだけを選んで使うというような状態のようですが、この不良品をはじき出し処理するという作用が上手く行かない場合が多く、それが様々な病気ということになるそうです。これを「フォールディング異常病」と呼ぶそうですが、これまで別の原因と考えれていたものの中にもそこに含まれるという病気もあるようです。

プリオンによるBSEなどの病気もまさにこの一種であり、DNAが関与せずにタンパク質の接触で広がるという怖ろしい病気ですが、分子シャペロンというもので治療できるのではないかという希望もあるようです。

タンパク質に関して一通り全体を見回すという意味ではなかなかの良書かと思います。