爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「帝国大学の誕生 国際比較の中の東大」中山茂著

科学史が専門の中山さんですが、東京大学の歴史の中でその誕生の頃についての調査研究もされており、その成果を一般向けに新書にまとめられています。
ちょっと前の本ですので、まだ講座制も昔どおりだった当時とかで、現在とは若干の差もあるかもしれませんが、大方のところは成り立っているでしょう。

東京大学の歴史として知られている前身は、幕府の天文方から始まり、蕃書調所などを経て開成学校となり、その後帝国大学となったと言われています。
しかし、本書においては江戸幕府時代の前身とはほとんど関係が無く、明治政府がその官僚養成のために作った帝国大学が実質的な東大開始であり、しかもそういった成立の動機がいまだに東大の性格を左右しているという立場です。

明治維新直後にはすべての政府としての体裁を整える必要性が大きく、その中でも実際の建設等の必要性から、工学系の人材育成というところに力点が置かれていましたが、その直後には早くも政府官僚の人材育成という必要性が出てきました。そのために法科系といわれる分野の人材育成機関=帝国大学が成立していくことになりました。
形としてはドイツの大学を参考として作られていきましたが、その本質はまったく異なり、ヨーロッパの大学というものは神学から始まり哲学を主要とするように移り変わってきたものが、そういった学部はほとんど成立せずに官僚養成機関の法学部(それも法律理論を研究するためのものではない)に、技術官僚養成のために工学部、農学部、医学部等を付設した帝国大学として発達していったというものです。
そのために、発足以降かなり長い期間にわたり、帝大法科出身者の官僚採用試験(高文試験)免除ということも行われていたということです。

その後、帝国大学と呼ばれるものが他にも設立され、また早稲田慶応などの私立学校も設立されてきて大学というものの体制も出来上がってくるのですが、ヨーロッパの大学のような自然発生的であり、学問研究を第一とする機関にはなりえなかったということです。

現代でもその傾向はさらに強く、企業などへの人材供給源としての役割だけになっているようです。病根は深く重いといわざるを得ません。