爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「本末転倒には騙されるな」池田清彦著

構造主義生物学者という池田さんが、「ウソの構造」を見抜くと書いた本です。かなりその点については怒り心頭に達するという風情ですが、あまり頭に血が上りすぎているとその対象が外れた場合はかなりイタイということにもなります。
2013年はじめの出版ということで、どうしても原発関連が巻頭に来ることになるのでしょう。原発の発電コストが低いとか、放射性廃棄物の処理方法も決まっておらずその隠れた費用は莫大とか、当然のことも書いてはあります。
ちょうどその頃はアメリカからシェールガスのニュースが入っており(最近は聞かないですが)その価格が日本向けはアメリカ国内の9倍にもなると怒っておられます。このニュースソースがどこなのかは分かりませんが、アメリカのガスに関してはそのコストや価格など非常に不安定なもので、実際は最初は低価格で出せてもすぐに急激に価格上昇するという見通しを「もったいない学会」HPで専門家の方々が論証しています。ここはちょっと的外れだったようです。
新エネルギー開発も無定見なばら撒きはやめて石油産生藻類に絞るべきというご意見ですが、それもどうでしょう。夢物語なのは一緒のように思います。

原発事故のあと、放射線被曝の限度量を操作して年間1ミリシーベルトから20に上げたという点にも噛み付いていますが、1ミリシーベルトというのが「安全を考慮して抑えていた」というのは不正確でしょう。どうせここまで上がらないと高をくくって適当に決めていただけの話だったのでは。それが守れなくなってあわてて上げたのも恥ずかしい話ですが、もしも元の基準値のままだったらどうにも動きが取れなくなったでしょうから、仕方の無かったところでしょう。それを守って全員避難などということになればさらに間接被害が増大していたはずです。その辺のところはちょうど民主党政権の時代ですべてそちらに責任を押し付けられたので良かったのかも。

細かいところで的外れもありますが、社会のあちこちで起こっている「本末転倒」現象は権力者の利権をめぐる行動に起因するという著者の指摘は確かでしょう。ただそれが政府や官僚、大企業に多いのは事実でしょうが、誰でも無関係ではありえないということも忘れてはいけないのでは。