爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「気候変動とエネルギー問題 CO2温暖化論争を超えて」深井有著

著者は物理学専攻ですが、その分野が金属物理ということで理学部門だけでなく工学部門にも通じているということです。中央大学名誉教授になっています。
気象自体は専門ではないのですが、それに関する議論のあまりにも低俗なことに業を煮やしたか、かなり基本的なところから一般向けに解説をされました。

そんなわけで、本書は前半のかなりの部分を気象問題に関する議論で使っています。
まず最初はクライメート事件からですが、本来は二酸化炭素温暖化論争自体の存立にも関わる問題のはずなのに日本では異常に小さく扱われほとんど無視されています。IPCCも諸国ではかなり疑問が呈されているにも関わらず日本ではその影響力には翳りがないようです。
気象に関する研究も変わらず続けられており、近年でも大きな業績が数々得られていますが、それが取り上げられることも少ないようです。太陽活動の変動そのものの影響ということも以前は言われていましたが、それは非常に小さいものであることが分かりその直接の影響というものは否定される方向になりました。その隙間を縫って二酸化炭素温暖化論が噴出したようなわけですが、実は太陽活動の変動により磁場が変化することで、地球に降り注ぐ宇宙線の量が大きく変動するということが分かってきたようです。
宇宙線量の変動というものは、地球の大気圏で雲の生成に大きく関わってくるということは確かですので、気候変動の主因はここにあるのかも知れません。

ところが、こういった地球物理、宇宙物理に関する新たな発見の報告は21世紀に入ってからも大きなものがいくつも報告されているにもかかわらず(スヴェンスマークなど)そういった情報を二酸化炭素温暖化論者はまったく顧みることも無く、相も変わらず「二酸化炭素温暖化懐疑論者は1990年代以前の報告だけで否定している」などと時代遅れで恥ずかしい議論をするばかりだそうです。

本書第2章に取り上げられているように、地球の現状というものはあるかないかも分からないような温暖化などに取り組む余裕など無く、喫緊の「エネルギー問題」に総力を挙げて取り組む必要の方がはるかに大きいということです。

様々なエネルギー源に関する著者の意見は基本的には妥当なものであると思います。
化石燃料についてはその可採年数などは考え方により少々の違いはあるものの、結局はあと数十年で無くなってしまうということには間違いなさそうです。そしてそれらは長い年月をかけて作られてきたものであり、我々の世代だけですべてを燃やしてしまっていいわけではないということもまったく私も同意見です。
その意味で、温暖化論者の言うような二酸化炭素排出削減も一定の意味を見出せるのですが、それの対策として余分なエネルギー消費を伴うものも頻発しているというのも正に卓見でしょう。

本書は2011年に発行されたものですが、それでも原子力はエネルギー源として無視が出来ないものと記述されています。非常に現実的な観点でしょう。ただし、通常のウラン発電だけではウラン資源は80年しか持たないというのも事実であり、それを延長させる増殖炉というものが不可欠となります。また原発の欠点というものもあるわけで、こういったところを考えていく必要があります。
自然エネルギーについては、水力と風力は環境の問題からそれほど大きなものは出来ないだろうという見通しです。可能性があるというのは太陽光発電ですが、現在の技術では生産に要するエネルギーが高すぎ、補助金で推進するにしてもエネルギーの無駄使いが多いということです。この辺のレベルアップがなければ将来は無いというのは同意見です。

バイオエネルギーや石油産出藻類に関しては著者も専門外のためでしょうか、ちょっと見方が甘すぎるようです。この辺は技術の問題というよりはあまりにも薄すぎるというところでしょう。

究極のエネルギー源としては核融合しかないということですが、それを実現するまでの技術が確立するまで今のエネルギー供給体制が続くでしょうか。ここも含めて著者はあまりにも工学系の研究者とも近い位置にいるためか、技術開発というものに期待を持ちすぎのようです。他の技術も含めてすべては間に合わないまま化石燃料枯渇を迎えるというのが一番ありそうな事態だと私は思います。

まとめとして著者は現在のもっとも確からしい見方として以下の項目を挙げています。
気温はこれまでも大きく変動しており、現在の気温も中世温暖期と同程度にすぎず近年急激に気温が上昇しているとは言えない。
気候変動は太陽活動に強い相関がある。これは太陽磁場の影響で地球に到達する宇宙線量が増減しそれにより低層雲の量に変化が生じるためである。
大気中の二酸化炭素の量が気候変化の主因だという科学的根拠はない。
炭素資源を今までの調子で使い続けると数十から百年程度の間に使い果たされる。これに代わるエネルギー源を開発するのが一番の課題である。
原子力は当面代替しうるエネルギー源だるが、環境負荷が極めて大きいのでいつまでも使用する事はできない。
理想的なエネルギーシステムは太陽光を一次エネルギーとし、電気または水素を二次エネルギーとする。その実現のためにはエネルギー貯蔵技術が鍵を握っている。

このようなものですが、将来についてはどうでしょう。やはり頼りにはなりそうもないと思いますが。