爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「なぜそんなに痩せたいの?美人になりたい女の社会心理学」ヴァルトラウト・ポッシュ著

行き過ぎた痩身願望で若い女性が健康を損なっていると言うと日本のことのようですが、著者はオーストリアのジャーナリストで本書はアメリカやヨーロッパの状況について書かれています。
日本では痩せることについて過度な期待があるが、欧米ではグラマー志向が強いのではないかと考えていましたが、どうやらそれも昔のことのようで、実際の人々の体型はどうあれ、多くの女性が理想とするのはスリムであるようです。
欧米における女性美というものの歴史的変遷というのも語られていますが、やはり近代までは豊満な肉体が美と考えられていたようですが、女性の社会進出が進むとともに変わってきたようです。特に第1次世界大戦では男性が出征したために多くの女性が職に就くことになり、それが意識にも大きな影響を及ぼしたようです。行動的になるということは体型もスポーティになることを意味しました。しかし実際の体型と言うものは現代よりよほど豊かなものだったようです。
しかし、戦争終結とともにまた男性が社会に復帰し女性は家庭に戻りました。さらにナチズムが母性を強調しそのような女性を賛美すると言うことも起きました。
第2次大戦の混乱のために実際の食生活は貧しかったために理想としては豊満な肉体を求めると言う傾向がおき、1950年代ではマリリン・モンローのような現代の基準では特大サイズと見られる人がスターとなったということです。
1970年代から価値観が大きく変わり、性差というものが意識から遠のきました。そのため、女性の肉体もスリムでスポーティな方が良いと言う風に変化してきました。
現代の美人の条件というものは徹底的に脂肪を減らすと言うもので、アメリカのファッションモデルの体重は1965年には平均的女性の8%減程度だったのが今ではー23%になっているそうです。
また、年を取らずに若々しいということが求められておりそのための努力が厳しく求められるようになったそうです。

欧米では男女の性差別は厳しく否定されていると言うのが日本の現状を非難する際には必ず持ち出されますが、本書によれば実態はそう簡単なものではないようです。やはり女性としての価値を美しさに置くというのは広くいきわたっており、それにしたがって子供の家庭教育も行われているのは紛れも無い事実だそうです。
テレビや新聞の報道、CMの作成などを見てもそのような価値観に基づいていることは明らかで、またそういう基準で行われることを求める社会の要求も根強いようです。
また、理想体型が一般の人々の体型からかけ離れてきているためにそこに近づけるための手間隙、費用というものも増大してきており、トレーニングやダイエット、美容手術というものは大きな負担となってきています。
さらに女性は社会的な活躍とともに家庭でも良き妻、良き母という役割もこなすことが求められておりスーパーウーマンでなければ対応できないようです。

美容産業というものの危険性も語られていますが、聞きしに勝るもので事故も多くトラブルも頻発しているようです。女性の美容手術というのもかなり危険なものがあるようですが、特に中年以上の女性はかなり危ないものでも進んでやっていると言うことです。

美しさ、スリムさというものばかりを求めているとなにやら危険な社会になっていくようです。アメリカの現状にはまだ日本も届いていないでしょうが、これから近づいていくのでしょうか。

なお、訳者はオーストリア在住の渡辺一男さんという方で、こなれて読みやすい日本語にされていました。「馬子にも衣装」などという言葉も出てきましたがこれは原文ではなんだったのでしょう。
また、本書では「ダイエット」という言葉は本来の意味の「食餌療法」という意味だけに使われており、安心して読めました。なんでもかんでも痩せるための努力を○○ダイエットと呼ぶ風潮には困ります。