爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「いつまでもあると思うな、水と食」中村靖彦著

中村さんの本はこれまでも何冊か読ませていただきましたが、NHKで農業関係の報道に携わりその後解説委員も勤めた方です。
その後大学教授を務める傍ら、執筆活動をしていますが、報道担当当時は番組を流してもあとに残らず、振り返ってさびしく感じたようで、それでこれまでの文章を抜粋して自選集を残そうと言う気になったとか。
そのため、本書は1980年代から始まり最近の文章までを収めていますので、旧ソ連の食糧生産事情から、TPPの交渉に至るまであれこれの内容が含まれて居ます。

主なテーマは食糧確保の危うさとそれに先立つ農業用の水の確保という点についてです。食糧、特に穀物の供給についてはこれまでも常に綱渡り状態だったと言えます。それは穀物生産の余裕の無さというところから来るわけで、常にぎりぎりの生産量しかないために少しの変動ですぐに不足するからですが、これからはさらに厳しさが増すということです。
水については、食糧生産に関わる水の量を計算して輸入したことと考える「バーチャルウォーター」という考え方が広まっていますが、本書でもその数値は紹介されているもののそれ以上の主張は見られないようです。特にアメリカで地下水を農業生産に使い果たすのではないかと言う危険性があるわけで、その点も指摘されていますがならばどうするかという対処の提示がありません。どうすればよいのでしょうか。
途中でミネラルウォーターの水質の話や、地下水の利権の話に行ってしまいます。

旧ソ連の食糧生産の危機も体制論で終わってしまい、現状は触れられていません。その辺のフォローが欲しかったと思います。あくまでも以前にいずれかの公的な場で発表された文章を集めると言うことにこだわっておられたのかもしれませんが、ぜひ現状分析の加筆が欲しかったところです。