爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「科学の落とし穴 ウソではないがホントでもない」池内了著

池内さんは現在は総合大学院大学の教授で天文学者ですが、科学一般についての著書も多いようです。本書もそういった面での随想などを連載したものをまとめたようです。
中日新聞に掲載したものと「グラフィケーション」に発表したものでどちらも2ページのものです。グラフィケーションというのは雑誌なのかどうかよくは分かりません。

2004年ごろから2008年までの発表年のものですので、その辺に起こった出来事なども扱われています。それから10年近く経っており当時なにが起きていたかも記憶が薄れていますが、JR西日本福知山線の事故が扱われています。つい最近もあれから何年というテレビ番組がありましたが、衝撃的な事故でした。本書ではその当時の事故原因として報道された「時間遅延とペナルティー」に事寄せて、昔の日本では時間は「めぐる」ものであったのが、現代では「すすむ」ものになってしまったことが事故の遠因と語られています。

また、「納豆騒動」なるものも起きていました。テレビ番組で納豆がダイエットに良いという内容が流されるや、店頭の納豆が売り切れたと言うものでした。著者はやはりテレビの言うことを鵜呑みにする視聴者の態度を取り上げています。ちょうどその頃に大学の授業があったので、学生にこのような問題点を考えさせると言うことを実施したようですが、その場では学生の反応もまともなもので、風評被害というものもその同根であることも見抜けたようです。
さらにその直後にこの番組のデータが捏造であったと言うおまけまで付き、なかなか面白い事件でした。

科学雑誌への論文投稿というテーマについても書かれています。以前は論文までは至らない内容であっても科学者間で手紙を書いて討議し、さらに証拠を残そうと言う習慣がありました。アインシュタインダーウィンなどは何千通もの手紙を書いていたそうです。それが残っていると言うのは一流の証明なのですが。(二流以下の科学者からの手紙は受け取った方も保存しない)現在ではそのようなことはなくなり、また論文発表でもオンラインジャーナルというものが多くなってしまい、レフェリーがいちゃもんをつけるということも少なくなってしまったようです。今回の理研の小保方騒動も思い起こされます。

二酸化炭素地球温暖化については著者は肯定的に捕らえているようですが、一方で反対論が多いことも認識はしています。しかし、何らかの対策は講じておかねばならないと言う態度で、「予防処置原則」を持ち出していますが、それはどうでしょうか。
”ある事が環境や人間に害悪を及ぼすと予想されるとき、あらかじめそれを行わないよう処置する”ということですが、その予想なるものは恣意的なものであり、その処置自体も害悪を引き起こす可能性が十分にあります。結局予防処置なるものは「自分の嫌いなものはさせない」ということに他ならないのですが、そういったことを認識はされていないようです。
二酸化炭素温暖化仮説についても、それが証明されなくてもすぐに対策をしなければならないと言うことで、予防処置を説く人は多いのですが、その処置内容として代替エネルギー二酸化炭素地中処理などを持ち出してもそのこと自体が大きな害悪を作り出す可能性についてはあまり言わないようです。これらにも「予防処置」を言い出せば何もできません。

地震は予知できない」という記事もあまりにも当然な内容ですが、予知利権とも言うものが存在し動きが取れなくなっているという事態の描写はできなかったようです。