爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「時代小説が書きたい!」鈴木輝一郎著

時代小説も数多く書かれている著者が、小説家とくに歴史小説や時代小説を目指す”中高年”のためにあれこれと指導されている内容です。

現代小説は若い人でなければ無理ですが、時代小説はそもそもライバルが司馬遼太郎藤沢周平池波正太郎などすでに亡くなっている大家になるということなので、かなり年のいっている人でも立派に新人作家としてデビューできる可能性があるそうです。またある程度の知識と人生経験も必要なので、実際に60歳過ぎてから出版を始めた作家と言うのも何人も居るそうなのですが、さすがに考えるべきことは多くありそうです。

歴史小説と時代小説というと同じようなもののようですが、史実に従って書かれる歴史小説と、舞台だけを借りる時代小説ではまったく異なるもののようです。しかし、いくら時代小説とはいってもあまりにも時代感覚を無視したものではだめで、やはりかなりの歴史知識が必要になります。
ただ、史実に忠実にと言ってもこれまでに知られている「史実」というのは実は相当いい加減なものも含まれているようで、宮本武蔵なども歴史的に確認できるのは老齢になり大名に抱えられてから後の話だけで、それ以前のものはすべてその後の創作だったようです。

歴史を書く上ではやはりどうしても史料調査というものが必要になるようですが、どうしても不可欠な歴史資料というのが一次資料と言われる元の文献で、群書類従や徳川実紀などというものがそれに当たります。しかし、当然のことながら現代の復刻版であっても非常に価格が高く数十万円もするものも珍しくないそうです。しかし、これが必要と言うのが著作権の問題で、二次資料といわれる現代の刊行の解説などにはすべてその著者の著作権がありますので、注意が必要ということです。
問題は、一次資料の方には間違いや矛盾が相当多く、それを解析すると言う研究が数多くなされており、その訂正後の知識を使おうとするとその研究者の著作権に触れると言うことのようです。これをどうやって避けるかということのためにもやはりどんなに高価でも一次資料を持っておくという手段が必要なのだそうです。

その辺の調査が不足している作家も多いようで、実際に売れている本でも考えられないような歴史考証のミスが見られるとか。ただし、読む人もほとんど気がつかないということもあり、なかなか改まらないまま売れている本もあるようです。
ただし、江戸時代は変化が緩慢であったとしても260年も続いているために時代によって相当異なることもあるようで、ここも注意が必要。戦国時代は社会の変化が急激であり、ちょっとやそっとの調査では間違いだらけになることもあるようです。
戦国時代では江戸時代のイメージとは全く異なり、剣道などの武道はほとんど重んじられなかったとか。というのも実際の戦闘では刀を抜く場面というのもほとんど無く、長い槍を集団で振り回す方がよほど威力があったようです。
著者の意見では、このような戦国時代の戦闘シーンのもっとも正確なものは、クレヨンしんちゃんの戦国大合戦というアニメだそうです。

戦国時代の名前の呼び方というのもむずかしいようで、女性の本名もほとんど分かっておらず細川ガラシャが「玉」信長の妹が「市」というのは確からしいのですが他はほとんど知られていません。しかし、男性の忌み名(本名)はほとんど使われることが無かったと言うことでもなかったようで、実際は手紙などの文献を見るとちゃんと書いてあるということがあったようです。
このあたりは難しすぎて当時の人達も間違えたというところのようです。

とにかく何か書きたいことがあって小説家と言うものになりたければ、出版社の新人賞に応募するということだそうです。そうすると入選しなくても自費出版協力出版(こういうのもあるようです)の声がかかることがあり、道は開けるかもしれないということです。