爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ニッポン定番メニュー事始め」渋川祐子著

食文化に関する著作が多いフリーライターの渋川さんが連載記事としてよく食べられている定番メニューの発祥について書かれた物をまとめて加筆したということです。
ただし、相当なこだわりを持った調査方針で、いわゆる「元祖」というものを信じることなくできるだけ多くの資料をあたり推定すると言うことで、先入観を持たないようにそのような「元祖」の店からの聞き取りもしないようにしたと言うことです。同じような食べ物は各地で同時発生ということも多々あったようで、諸説あるというのも当然でしょう。
しかし、本書に出てくる料理は当然のことながらすべて日本発祥のものばかりです。カレーや餃子というのは本場のものとは相当違うということはもはや誰でも知っていることでしょうが、モンブラン・ドリア・焼肉・中華まん・ハヤシライスなどと出てくると、これも日本生まれ?と感じてしまいますが、どうやらそのようです。

スパゲッティ・ナポリタンというのも戦後に横浜のホテルで作られたと言うのが定説のようですが、どうもそのようなものは戦前からあったようです。しかし、現在の形に固定したのはそこだということでしょうか。
コロッケも一般にはフランス料理のベシャメルソースを使ったクロケットから生まれ、ソースをじゃがいもに変えて作られたと言われていますが、実際はクロケットが伝わったのは相当あとの時代になってからで、その時にはわざわざ「フランス風コロッケ」と紹介されているそうです。つまり、それ以前からジャガイモを使って揚げた料理は存在しており、クロケットとは別物だったのかもしれません。著者はポルトガル料理に起源があるのではと推定していますが、決め手はないようです。

モンブランは今でこそさまざまな種類のものがありますが、昔から見慣れているのは栗を使った「黄色いモンブラン」でしょう。モンブランとはアルプスの山で「白い山」という意味ですから、黄色のはおかしいのですが、もともとアルプス周辺で作られていたこのお菓子は栗のペーストに泡立てたクリームを混ぜたもので本当に白かったようです。それを昭和初期に日本風に改良してモンブランとして売り出したところから始まったそうです。

クリームシチューというと鶏肉のものが多く、牛乳の入ったものですが、これもそのような西洋料理というものは存在していないようです。日本でも鶏肉のシチューは明治以降紹介されていたものの、当時の人々には牛乳はあまり人気が無かったようで、バター風味だけだったそうです。牛乳がはいった白いシチューと言うのはごく歴史が浅く、戦後の学校給食で普及したようです。

現在の日本の食生活で明治以前からあったというものはごく一部だけのようです。西洋や中国、インドなどから多くの食文化を取り入れ、それを大きく日本風にアレンジしながら作ってきたのが今の食文化なのでしょう。