爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「生態系ってなに?」江崎保男著

生態系という言葉は最近よく聞きますが、なんとなく自然のままといった語感で使われているのではないでしょうか。
動物生態学が専門の著者がいろいろと書き記しています。

食物連鎖という言葉はよく聞かれると思いますが、それ以外に「腐食連鎖」というものもあります。直接の食関係ではないので認識されにくいのですが、動物でも植物でも死んだ生物や脱落した一部(落ち葉、脱落した皮膚・毛髪等)は死物(デトリタスと呼ぶそうです)と言われますが、これも分解されないと地球上がそれで埋まってしまいます。これを微生物などの働きにより分解するのですが、それらの微生物もまた食物連鎖などの一部を形成し、さらに大きな連鎖の輪ができてきます。
そこまで考えると直接の捕食関係にあるもの以外にも微生物など多数の生物を加えた全体が生態系(エコシステム)となり、大きな世界を形成していることになります。

エコシステムがなぜシステムかというと、外部からのエネルギーの流入をもとにぐるぐると回転しているからに他なりません。流入エネルギーというのは地球上では太陽光エネルギーにあたります。太陽光を植物がとらえ、光合成によりATPとして蓄えたものを他の生物が利用しています。
有機物の生産総量は陸上で年間1000億トン、海中で550億トンだそうです。単位面積当たりでは陸上が海中の20倍以上もの生産力があるそうです。砂漠も含めての話なので森林地帯ではさらに多いのかも知れません。
海中でも藻場やサンゴ礁では高い生産力があり、森林を上回る場所もあるそうです。
著者の意見では、このような生産性の高いところほど守るべき生態系であると言うことです。熱帯林、サンゴ礁、湿地というのがそのような場所です。

植物が光合成で行う生産を一次生産と呼ぶのに対し、草食動物が植物を食べてたんぱく質などに変換するのが二次生産だそうです。二次生産力が極端に落ちているのが現在の水田ということです。圃場整備といって水路などをコンクリートで固め、また農作業の効率化のために稲の生育期以外には乾燥化させるということが行われるために昆虫や小動物の生息が難しくなりました。現代の水田はただの植物工場と化しています。

生態系のエネルギーの総量の計算と言うのも調べられており、アメリカの草原の場合、1平方メートルあたり1年間に降り注ぐ太陽光エネルギーは60万キロカロリーだそうですが、そのうち光合成で植物がとらえるのは8300(単位は同じ以下略)、そしてその4000は自身の呼吸で使ってしまいます。残りの4300のうち4000は枯れてしまい、残りの300のうち227はバッタなどに食われ、73だけが植物の成長に使われるそうです。
イギリス海峡の海の中では、太陽光は年間30万キロカロリー、植物プランクトンはそのうち2900をとらえます。自身の呼吸で250を消費し、残りの2650が純生産量ですが、そのうちの2600は動物プランクトンにより食われてしまいます。
草原と海中ではこのように生態系の回転がまったく異なるようで、海中では草原のような枯死した植物を腐らせる微生物というものがなく、すべてを食物連鎖でまわしていると言う見方ができます。

生態系の物質の移動では、窒素やリンなどの植物にとっての栄養源も問題になります。少なければ植物の成長が悪くなりますが、多すぎても狂ってきます。日本などの河川・湖沼や沿岸部はこのような過剰な栄養分がたまって赤潮青潮の原因となってしまいます。

生物の多様性保全ということが広く言われるようになっていますが、これに対する最大の障害は人間の活動です。生態系を構成する生物のピラミッドが崩れれば生態系自体の存続も危ういそうです。また、生物が居ればいいのかといっても外来種が多くなればその場の生態系も変化してしまいます。
人間の居なかった昔の生態系にはもはや戻すことはできないでしょうが、今後これ以上壊さないということも大切なのかもしれません。