爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「石油をめぐる世界紛争地図」トビー・シェリー著

石油関係に詳しいジャーナリストと言うフィナンシャル・タイムズ所属のトビー・シェリーさんが、石油と天然ガスの現状と政治などとのかかわりについて解説したものです。
前書きにもあるように、取引全般についてや、これまでの石油メジャーの活動なども他書に譲ると言うことで触れていません。

石油や天然ガスは供給がタイトになるという予測にも関わらず、相変わらずそれに依存する世界経済の状況に変化はなく、新興国も経済成長を求める場合は必ずそこへの依存性が増大していきます。したがって、世界経済全体の石油への依存度はさらに増すばかりになっていきます。

しかし、産油国のほとんどはそれまでは未開の国であり政治体制も整っておらず、国民の意識もまったく低いままですのでそこに多額の金が流れ込むことで混乱が大きくなるばかりです。
初期の頃は欧米の石油メジャーが多くの取り分を取り、現地にはわずかな金が流れるだけだったのが、OPEC形成などを通し格段に現地政府に金が回るようになっていきました。しかし、大半の国は独裁体制やそれに近いものなので権力者にすべての金が入り込むだけで国民全体を富ませるような仕組みになっていません。もちろん、政府費用もほとんどそれで賄っているので税金も取らずに済むような体制ですが、それがかえって国民意識の醸成ということを阻害しているようです。
石油収入で経済発展を実現し、石油に頼らない経済の自律を求めるということをどの産油国でも目標に掲げますが、ほとんどそれが実現したところはないようです。レント作用と呼ぶそうですが、課税がおろそかになり石油収入のばら撒きで歳出を賄うためにまったくの無責任体制になってしまうとか。
また、石油収入を軍事に用いるために反対派弾圧ばかりに精力を使うようになりがちです。

そういった独裁政権は石油収入のみで成り立っていますが、それが極端に増減するために石油価格暴落の折には収入が激減するということもこれまでに何度も出現し、それのたびに政権が激動してきたようです。
また、そのような旨味と言うものは反対派も作り出し、クーデターなどの頻発ということにもつながるようです。

1973年にアラブの石油禁輸処置に始まる第1次石油ショックが起こり、日本などでは省エネルギーの徹底と言う形で現れて来ましたが、結局のところ経済成長が回復するとエネルギー消費が増えると言う体質には変わりはないようです。中国やロシアが石油の生産と消費の両方で経済混乱の原因となっていますが、これは今後も続きそうです。

今の世界と言うものが石油の生産の動向と一蓮托生であるということが再認識できました。