爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「トリマルキオの饗宴」青柳正規著

この本は97年の出版ですが、その当時は東京大学文学部の教授だった青柳さんの著書です。
原著は古代ローマのネロ皇帝の時代のペトロニウス・アルビテルという人で、その「サチュルコン」という作品の中の一編が本書の主題となっている「トリマルキオの饗宴」という部分だそうです。

トリマルキオというのは実在の人物ではないのでしょうが、解放奴隷で、自由民となってから商才を生かして成功した成金という設定です。その当時はそういった金持が主催して知己を招いた饗宴というものがしばしば開かれており、そこでは金に飽かせた趣向を凝らした料理や出し物が用意され、それを他の饗宴と競い合うということが行われていたようです。

そのような饗宴に招かれたエンコルピウスという若者が語った饗宴の一部始終という形で描かれています。
古代ローマでは食事は一日2回で、朝昼兼用のものは軽く栄養を取るだけのものでしたが、夕食は庶民であってもできるだけ豪勢なものにしていたようです。まして金持にとっては友人を招いて自らの財産を誇示するという意味もあり相当なものでした。
午後3時ごろにまず浴場に寄ってからトリマルキオ邸に赴くことにしますが、その浴場でトリマルキオに出会いそのまま一緒に行くことになります。
饗宴はまず前菜から始まりメインとなる料理、余興の出し物、酒を飲んでの世間話と続いていきますが、随所に主人の趣向であっと驚くようなドラマ仕立てのハプニングも盛り込まれ、招待客の度肝を抜くようなものにするということになっていたようです。
しかし、作者のペトロニウスは主人公のトリマルキオという成金に対する侮蔑感というものも持っていたようで、無教養でありながら形だけは整えようとする態度を嘲笑するような描写を随所に入れていたようです。

このような作品ですが、食生活に関する部分だけでなくその他の描写を見ても当時の人々の生活についての非常に多くの知識を与えてくれるようなもので、公的な記録だけでは分からないようなところが垣間見えるようなものになっています。もちろん相当な富豪の生活ではありますが。
なお、トリマルキオ邸に使われている奴隷の数はざっと見積もっても400人以上は居たようです。もちろんその家内だけにいる人数であり、農場などで働かせていた奴隷はさらに人数が多かったと考えられるため、数千人の奴隷を所有していたかもしれません。その中で功労のあった者やお気に入りを解放するということもしばしば見られたことのようですが、商才があり成功するものは良かったものの、そう上手くは行かず没落してしまう解放奴隷も多かったようです。

饗宴での飲み物もイタリア国内産のワインに留まらず、当時は高級品とされていたヒスパニアのワインも出されていたようです。どのようなワインであったか、そちらにも興味がわきます。