爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「大河ドラマ入門」小谷野敦著

比較文学の研究者で大阪大学助教授などを経て文筆業として活動されている小谷野さんなんですが、1962年生れで幼い頃からNHK大河ドラマに取り付かれ、それ以来特に興味の持てなかったものを除いてはほとんどを見尽くしているという大河ドラマファンだそうです。
その詳細をご本人手書きのイラストまで交えて書かれています。

見出した最初は1973年の国盗り物語で、小学校5年生だったそうです。番組が始まるとメモ用紙を用意してメモを取りながら見て、ノートにまとめを記していたと言うことです。

大河ドラマは原作と表記されている小説がありますが、(オリジナル脚本と言うものも近年増えているようですが)それが本当に「原作」と言えるかどうか怪しいものもあり、また別の作品から作者に無断で脚本に引用してしまったと言うトラブルも起こっているようです。あくまでも脚本が主と考えた方が良さそうです。

著者は歴史ドラマ好きと言ってもその対象は広く、あまり馴染みの無い時代の話を見るのも好きだと言うことで、これは私自身もその興味はあるのですが、一般視聴者にはそうではないようで、著者も言うように南北朝時代応仁の乱などを描いたものは見事に視聴率的には失敗だったようです。結局、受けがいいのは信長・秀吉・家康と忠臣蔵、幕末だけとか。
秀吉も死の直前の老醜をさらし放題のところまではあまり描かれないことが多く、一般受けばかりが目立つようです。

俳優のキャスティングに関しても著者は非常にシビアな評価をしていて、高橋幸治の信長や松たか子の茶々は高い評価ですが、散々なものも多いようです。坂本竜馬藤岡弘が最高とか。

著者が気にしているのは、ドラマを分かりやすく描くには仕方の無いことかもしれませんが、人物を諱(いみな)で呼ぶことは有り得ないと言うことです。織田信長に向かって「信長様」などと呼ぶと言うことは当時は絶対になかったそうです。その時々の官職を使って呼びかけていたようです。
人の呼び方にも通称あり、幼名あり、法名ありで覚えるのも大変で、さらに年とともに変化してしまいますので複雑ですが、それを無視しては歴史ドラマとは言えないでしょう。
なお、諱はたいてい漢字2文字の訓読みであったそうですが、これを他人が使うと言うことは現実になかったので、本当はなんと読むのかと言うことが不明であることが多いということです。後醍醐天皇の皇子で護良親王など「良」の字が使われていますが、これも「ナガ」と読む説と「ヨシ」と読む説がありますが、微妙な学説の議論にもなりましたがそれも実際には呼ばれることがほとんど無かったために良く分からないからだとか。
女性の名前も秀吉夫人は通常「おね」または「ねね」と言われていますが、本当のところはよく分からないようです。そもそも秀吉夫人をそのように呼ぶと言う人は居なかったというのが本当のところだとか。

大河ドラマというのは娯楽作品でありながら一般人の歴史観を作っていくうえで大きな意味が付けられたものかも知れません。それならばこそ歴史上の真実に関しては慎重に表現してもらいたいとNHKには望むところです。