爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「資本主義はなぜ自壊したのか」中谷巌著

ハーバード大、大阪大、一橋大などで教授を務め、細川内閣、小渕内閣で研究会委員なども勤めた中谷さんですが、当時の改革路線に自ら疑問を感じ見つめなおしたと言うものです。

世界的に不況になっているというこの本の出版の2008年ですが、それは今でも変わっていないでしょう。それから抜け出すためといって全世界でいろいろなことがされていますが、「改革」と言う名で規制緩和などもされています。
しかし、そのような「新自由主義」でグローバル経済に道を開いてしまったのがこの後の資本主義の自壊につながると言うことです。

グローバル経済には本質的な欠陥があり、それは1.世界金融の大きな不安定要素となる、2.格差を拡大し中流階級を没落させる、3.地球環境を汚染させるというものです。これらはグローバル経済が本来持つ欲望を追求していけば必ずそうなるものであり、それを止めるためには世界政府が必要ですがそれは今は存在しません。したがってこのまま行けば破滅に向かうと言うことです。

著者はアメリカ留学して経済学を専攻したという経験から、構造改革をして小さな政府を目指すと言う新自由主義を信奉しその方向で進んできましたが、それがこれまでの社会的価値を破壊していくことに気付き賛成できなくなったということです。
アメリカは自由競争・自己責任の国であり、だから世界一豊かになったというイメージは実は半分しか真実ではないと言うことです。アメリカが元来持つ大きな身分格差の中でも稀に成功者が出るために「努力すれば成功する」という錯覚を与えてしまい、それが「失敗するのも自己責任」という風に転嫁されていますが、本当は「ほとんどが失敗する」にもかかわらず「まったく救済されない」というものだそうです。

ここ十数年のアメリカの発展はほとんどが金融業界だけでした。これらはものづくりというような資本投下や人づくりが必要な産業とは違いマーケットが大きくなればなるほど儲けも大きくなるというものです。さらにITの発展によってその効率も格段にアップしてしまいました。その結果、ほんの一握りのスーパーリッチと圧倒的多数のワーキングプアに分かれてしまいました。さらにソ連の崩壊で東側社会が参加するようになると安い労働コストの労働者が大量に参戦するようになり、先進国の産業空洞化が進んで先進国内の労働者の難民化も進んでしまいました。こうして安い労働者の多い後進国には若干の発展が見られたものの多くの国の労働者は下層化してしまったのです。

さらに地域社会内で生産から消費まで完結していた頃は環境悪化も大きな問題となるために、比較的対処が進みやすかった(進めなければならなかった)ということはあったものの、グローバル化したことで生産現場と消費地が離れたために、生産現場の環境悪化などは放っておくということになってしまいました。環境対策コストも惜しいと言うことです。環境が悪化したらまた別の場所で生産すればよいだけのことです。このような反道徳という性格を持っているのがグローバル資本主義です。

このような反社会的な性質のグローバル経済ですが、これを規制するための世界的な政治権力というものは存在せず、当分の間はやりたい放題です。しかもそれにさらに追随するような政策を日本政府は取るようになってしまいました。その結果、貧困層の増加が進み所得の再配分も進まずにさらに悪化しています。そうなれば社会不安も増大するでしょう。

アベノミクスなどと言うまやかし政策もこの延長上にあり、崩壊も目に見えるような気がするのですが、目に見えない人がまだほとんどなんでしょう。

なお、自然を収奪するだけの現代文化に対し日本は自然との共存文化と持ち上げるのは良いのですが、「江戸時代までは山林も保護」というのは少し認識が足りないのではないでしょうか。先日読んだダイアモンドの「文明崩壊」でも江戸時代には特に人里に近い山林(いわゆる里山です)は燃料用や緑肥として切り出され禿山となったところも多かったという記述がありました。実情はその方が近いのではないでしょうか。木曽などの限られた地域で特に材木として価値の高い森林を守ったということをあまり過度に評価はできないと思いますが。