爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「幕末単身赴任 下級武士の食日記」青木直己著

著者の青木さんは㈱虎屋お勤めで、虎屋文庫研究主幹ということですので、食文化関係の江戸時代からの文書をまとめて居られるのでしょうか。

本書は、江戸時代もほとんど最後に近い万延元年に紀州和歌山藩の酒井判四郎という侍が江戸屋敷勤務を命ぜられ、和歌山を立って江戸へ入り、その後江戸屋敷で過ごしていくのですが、その生活の詳細を日記に記録しており、特にその食生活について細かいところまで残していました。
判四郎はその当時28歳で家族もあったようですが、それを和歌山に残し、同職の上司であった叔父や同僚と江戸に向かいます。江戸時代といっても最末期ですので幕末の混乱は始まってはいるものの、様々な面でかなり整備された様子が見えます。

各大名の江戸勤務の侍(勤番侍)はほとんどが単身赴任で、食事なども自炊が主流だったようです。家来など持てるような上級武士ならともかく、判四郎のような下級武士は全部自分でやるのが普通だったようですが、元々そういったことが好きなのか、かなり手馴れた様子で食事を作り楽しんでいたようです。なお、同僚の侍にはそのあたりがまったく駄目なものも居たようで、飯もまともに炊けないといった愚痴も書いてあったり、叔父にせっかく作った料理の大半を食べられてしまったりといったこともあったようです。

料理の種類としてはやはり野菜が中心ですが、金に余裕のあるときは結構魚介類も買っているようです。また、風邪等病気の際には豚肉を食べるということもあったようで、肉食はすでに江戸時代の間から始まっていたことがわかります。
また、江戸屋敷勤務といってもほとんど仕事をするという必要はなかったようで、あちこち遊び歩いている様子です。普段の生活はつつましくしていても、そういった観光には思い切った使い方をしていたようです。また幕末の江戸では外食の店も相当数に上り、あちこちで食事を楽しんでいます。

日記に書いてあることは食事など他愛無いことばかりなのですが、そこから読み取れる下級武士の生活というものは興味深いものです。