爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「風は山河より 第1巻」宮城谷昌光著

「夏姫春秋」で1991年に直木賞を受賞し、その後中国の春秋戦国期を中心とした題材で続けざまに小説を出版してきた宮城谷さんが日本の歴史小説として最初に手掛けたのがこの本です。
題材は戦国時代中期の東三河の豪族の菅沼家三代の定則、定村、定盈ですが、第1巻では新八郎定則が松平清康(家康の祖父)と出会い、仕えるところからスタートします。

定則は15世紀末の生れで、まだ戦国大名と呼ばれるものはまだ確立されておらず、駿河の今川は以前からの守護大名として勢力を保っていたものの、尾張では守護は没落し、ようやく織田氏が台頭を始めた頃です。北条早雲も今川のもとを離れ関東にはいり平定を始めたばかりです。美濃もまだ土岐氏が収めており、斉藤道三が乗っ取りを始めるところです。

松平清康は抜群の能力でごく若い内から頭角を現し、三河を瞬く間に平定してしまいます。東三河の菅沼氏も今川の支配を抜け清康に従います。そのまま行けば尾張はおろか美濃までも平定できるのではと思わせていましたが、一族内の離反を引き起こし、わずか24歳で近習に暗殺されてしまいます。
そこまでが第1巻の内容でした。

宮城谷さんは日本の歴史小説を手がけるに当たり、他の作家が取り上げたことのない人物を扱いたかったそうです。そこで自らの出身地の愛知県蒲郡市に近い、野田城の菅沼氏を選んだとのことです。
実は私も、叔父が以前豊橋の近郊に住んでいて幼児期には何度も訪れたことがあったせいもあり、東三河地方というのは懐かしく感じるところです。また、父母の郷里の南信州に行く際に以前はよく国鉄飯田線を利用していたこともあり、「野田城」という言葉には記憶がありました。(菅沼氏の野田城跡のすぐそばに野田城駅があります)
宮城谷さんの書くように、三河武士は尾張などと異なり、利を考えずに信念に従う性質があるそうです。今は同じ愛知県内になっていますが、名古屋周辺とはまったく違うものを感じます。