爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「失敗学実践講義」畑村洋太郎著

失敗学を広く知らしめたともいえる東京大学名誉教授の畑村先生が良く知られた失敗事例を使ってその要因を分析する方法の実例を示したものです。

失敗を分析するのに、”失敗マンダラ”と名づけた分析図を利用していますが、原因・行動・結果のそれぞれについて分析を行います。
また、三現の法則といって、現地・現物・現人のそれぞれに当たることという原則に従い、大きな事故現場には頼まれなくても独自に行って調査をし、分析を加えたそうです。

その一例では、福知山線脱線事故現場に訪れた際、ほとんど他では指摘もされず報道もされなかったことに気付いています。それは、事故を起こした列車に注目するのは当然ですが、その後続列車・対向列車がどこで止まっているかと言うことで、それが事故現場直前まで来ていたことに驚いています。一つ誤れば昔の三河島事故のように後続列車の二重衝突も有り得た事態だったと言うことです。脱線した大事故が起こったと言うことは大変なことですが、そこで周辺の列車をすぐに停止させると言う訓練ができていなければ、さらに大きな事故につながりかねません。実は後続列車を止めたのはJR社員ではなく近所の人が停止ボタンを押したのかも知れないということです。こういったところにJR西日本の体質の中に、事故を起こした原因が含まれていると言う可能性があります。
JR東日本にはそのような状況下でのするべきことの中に周辺の列車への停止連絡と言うことがあり、これは三河島事故の教訓を生かしたものだということですが、JR分割前から国鉄内でも地域により差があったのかも知れません。

JR羽越線で強風のため特急が脱線転覆し死者も出た事故がありましたが、それにも現地に出かけ実際に現場を見、さらに周囲の人に聞き取りをしてその時の気象状況を調査しています。やはり離れたところからデータだけで見ているのと、実際に行って現地の人に話を聞くのでは相当ちがう認識になるようです。事故の時には確かに竜巻が起こっていたようですが、その場所ではこれまではほとんど竜巻が起こったことはなかったようです。しかし、その時だけ発生したのは間違いないようで、異常な現象だったのかもしれません。それでもその教訓を活かし、何らかの対策をする必要はあるのでしょう。

巻末に記されていますが、事故の遺族の話を聞いても、事故の責任者の処罰を求めると言う人はあまり居ず、事故の原因の調査をしっかりとして二度と同様の事故を起こして欲しくないと言うことを語る人がほとんどだそうです。
その意味では、そういった対応がうまくなされていない事故が多く、犠牲者の思いを裏切るものが多いようです。畑村先生の行動もそういった遺族の声が後押ししているのでしょうか。