爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「バチカン近現代史」松本佐保著

古代ローマから中世までのイタリアについては色々と本を読んできましたが、そこで出てくるローマ教皇というのは必ずしも平和的であるわけではなく、教皇領を保有する政治勢力で時には直接武力も持ち、カトリック教義のために闘うことも辞さずと言ったイメージでした。
しかし、現在のローマ法王カトリックのみへの影響力に留まらず、他の宗教との融和も目指し世界平和のために宗教界全体の代表として働いているイメージがあります。
この間の相違がどのような経緯でつながってきたのか、これが名古屋市大の松本教授により示されています。

扱う時代は18世紀末からのフランス革命とそれに続くナポレオンの統治によりヨーロッパ全体が動揺した頃から現代までです。
最初の頃はフランス革命に対して超保守主義といった法王が対抗していきます。その後、ナポレオンの衝撃を経てイタリアも統一の機運が高まりますが、ローマ法王は当時はまだ広い領土を保有しており、統一に抵抗することになります。
しかし、武力でイタリアを統一したサルデーニャ王国によりローマも奪われ、バチカンのごく小さな領域に押し込められてしまいます。
その後、ローマ法王は宗教からの働きかけで様々な世界各国の動きに介入していきます。

共産主義の勃興はローマ法王にとって大きな問題となり、共産主義を押さえ込むためにあらゆる手段を取る事となります。そのためナチスドイツやムッソリーニの反共ファシズムも認めることとなったために、戦後大きな批判を浴びてしまいます。
それを大きく変化させたのが、1962年にヨハネ23世により開催された第2バチカン公会議で、これでカトリックだけでなく正教会プロテスタントとも和解し、さらにユダヤ教イスラム教とも和解の方向に動くこととなった。
さらに次のパウロ6世は人権擁護を旗印に共産国への働きかけを強め、アメリカのカーター大統領などとも連携を強め、ポーランドキリスト教徒の支援やロシア正教会との交渉も通じて、結局ソ連の解体にも大きな働きをしたことになる。
その過程の途中からはポーランド出身のヨハネパウロ2世の活躍があったことはまだ記憶にも新しい。ポーランド人であることで、共産主義ポーランドの転換にも大きな役割を果たすことが自然にできた。
ヨハネパウロ2世はキリスト教国だけに限らず世界各国を訪れ盛んな活動を行った。日本にも初めて訪れ東京のほか広島・長崎を訪問した。

そして今回はじめてアメリカ大陸出身の法王フランシスコが誕生した。今後も様々な方面でローマ法王は世界情勢に関与し続けるだろう。